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立教大学石川ゼミと「新入社員のキャリア自律」をテーマにプロジェクトに取り組んでみて見えてきたこと

三井物産人材開発の長谷川です。今回は、2021年9月から11月の2ヶ月間にわたって行った、立教大学経営学部石川淳教授のゼミ(以下「石川ゼミ」)との共同プロジェクトについて紹介いたします。

プロジェクトの全体像

石川ゼミは「組織行動論」を専攻とする立教大学経営学部のゼミで、モチベーション理論やリーダーシップ論など、組織における人間の行動や心理を体系的に研究しています。
今回私たちは、人材開発の現場を石川ゼミの皆さんに知っていただくこと、そして、「組織行動論の視点」「学生ならではの視点」を人材開発に活かすことを目的に、プロジェクトを行うこととしました。

●9月に実施したキックオフでは、当社及び三井物産㈱が実際に抱える課題、テーマの背景を共有。
●プロジェクトテーマ「新入社員が、自身のキャリアビジョンを明確にできるような研修を考えてください」に対し、ゼミ生の皆さんより解決策を当社に提案。
●最終的に新入社員に対する1日の研修プログラムをゼロからデザインし、その中のコアコンテンツを1時間、最終発表会の場で実際にファシリテーションを行い発表。4チームに分かれ、発表班以外の3班は、発表班のファシリテーションを受講者の立場で体験。

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テーマに込めた想い

今回テーマとなっている「キャリアビジョンを明確に」という部分は、昨今注目を集めている「自律的キャリア形成」の観点をベースにしています。私達の研修対象企業でも社員のキャリア自律を後押しする方針がある一方で、多種多様な業界・領域で事業を展開している総合商社においては、ジョブローテーションや転勤などの理由から先々のキャリアを見通すことが簡単ではありません。
今後、個々人のキャリア観が変化し、個別性が高まることを踏まえ、キャリアを各々が一旦決めて、その実現に向けた行動意欲が湧いていることが大切だと、私たちは考えており、そのための研修施策を考えています。

とは言っても、大学3年生にとって企業の研修やキャリアは馴染みがなく、考えにくいのではないか、という懸念もありました。そこで、9月に行ったプロジェクトのキックオフで簡単な「研修体験ワーク」を行い、企業で行う研修がどのようなものか、というイメージを持ってもらうようにしました。

社員との対話を通して具体性を向上

キャリアに関しては10月下旬、11月中旬に「中間ヒアリング」「中間フィードバック」という形で2度、学生と当社の社員が話をする場を設けました。学生が抱いた疑問点を解消し、内容に関して社員がフィードバックする機会を設定することで、学生がテーマについての具体的なイメージを持てるよう努めました。
ヒアリングやフィードバックに参加した社員からも「ゼミで学んだことを少しでも活かそうと考えている」「テーマを自分たちなりに捉え、疑問を持った上でフィードバックの場に臨んでくれた」との声をいただきました。

担当としての気付き①『アウトプットの質の高さ』
“自分ゴト化”することの大切さ

11月下旬の最終発表をもってプロジェクトが終了しましたが、担当として関わった私の視点から、率直に感じたことを2点挙げたいと思います。
1点目は、学生のアウトプットの質の高さです。学生たちは理論や自分達なりの分析方法を用いて多角的にテーマにアプローチしており、まさに「組織行動論の視点」「学生ならではの視点」から提案してくれました。

特に1つの班では、「キャリア目標が立てられない理由」を「ゼミの目標が立てられない理由」に置き換えてアンケートを取り、要因を分析していました。こういった自分の馴染みがないことを、馴染みのあることに置き換えて分析することで“自分ゴト化”する柔軟さに刺激を受けると共に、解決に向けたアプローチ方法は無数にあると実感しました。

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※最終発表資料抜粋

担当としての気付き②『人材開発の仕事を体験してもらうことの意義』
“研修に関する醍醐味”を味わってもらう

2点目は、人材開発の仕事を体験してもらうことの意義です。プロジェクト終了後に実施したアンケートでは、以下のようなコメントがありました。

・研修を1からデザインした後、それについて受講者から良いリアクションを取っていただいたときの達成感とやりがいを学ぶことができた。”人”に焦点を当てる仕事では、徹底的に”人”について考え、デザインすることが重要になることを学んだ。
・人を動かすためには、理論だけではなく人の感情論にも焦点を当てるべきと感じた。
・研修を受講する人のモチベーションを継続させることが難しいと感じた。研修の目的を明確にし、それに対して興味を持って学ぼうとする意欲を継続させること、研修で得た知識を定着させ、習慣化させるところまで落とし込むことの大変さを感じた。

これらはまさに私たちが仕事をする上で大切にしていること、難しさややりがいを感じている部分です。2ヶ月間という短い期間でしたが、こうして人材開発の仕事の醍醐味を感じて、人材開発の領域に興味を持ってもらえたのなら大変嬉しく思います。

プロジェクトを終えて:石川淳教授より

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プロジェクトのご感想を石川淳教授に伺いました。

最最新コメント 2021-12-28 141103

今回プロジェクトをご一緒させていただきましたが、学生にとって最も有意義だった点は何だと思いますか?
1点目は、学びに対する意識を高めることができた点です。3年間ゼミ活動に取り組む中で、モチベーションが下がってしまったり、ばらつきが出てきたりします。今回のように外部の方と取り組むことで、感謝の気持ちや外部の方に提案できる機会を活かそうとする気持ちから、学生たちの学びの意欲を一段と高めることができたと感じています。

2点目は、学生だけで議論してフィードバックし合うだけでは得られないフィードバックを得ることができた点です。社会人と学生では重要だと感じる点が違ったり、学生が考えもしなかったことが現場では大切だったりします。このようなことは教科書には書いていませんし、授業で学ぶこともできないため、実際に働いている方にフィードバックをいただいたことで、大切なことは何かに気付くことができたと思います。

3点目は、学生たちが新たな視点で真剣に考えることができた点です。普段石川ゼミでは教科書やケースディスカッションを用いて学んでいますが、実社会や企業のケースを使ったとしても、どうしても考える視点が学生目線のみになってしまいます。経営学を学ぶ上でも、実社会で活かすためにも、学生目線ではなくマネジメント目線を持つ必要があるため、このプロジェクトを通して、2ヶ月間マネジメント視点で考えることができたことが非常に良かったと思います。
社会人経験のないゼミ生が、日頃自分が持っていない視点を持ちながら真剣に長期間考えることができたのは大きな意味がありました。今後学生が社会に出て仕事をしていく上で、様々な視点から見ることが大切なため、視点を変える訓練として非常に良い機会だと感じました。

今回のプロジェクトを通して、難しく感じたことはありますか?
石川ゼミの専攻である「組織行動論」を、学生が体系的な視点を持って実務の現場で活かせていない、という教育側の課題を感じました。提案内容の一部に使うといった小手先での使い方ではなく、「今回のテーマであるキャリアに対してどう向き合うのか」「何が課題でその原因は何か」のような大きな視点で組織行動論を活かした物の考え方をしてほしいと思っています。
今後は、学生が社会を見る視点として組織行動論を使えるよう、社会・実務との連結に努めていきたいと思います。

三井物産人材開発とのプロジェクトを通して感じたことがあれば教えてください。
三井物産人材開発の皆さんがここまできちんと向き合ってくださるのは、ゼミ側にとって非常に有難いことだと感じました。皆さんからしたら普段の業務もある中でやってくださるため、最低限の関わりになってしまうのが当たり前だと思いますが、ゼミの教育の意図を理解し、学生の能力育成・スキル形成に役立ってくださる、という意識で常に関わってくださいました。
この2ヶ月間皆さんで育てていただけている感じがあり、学生のさらなるモチベーションにも繋がっていました。本当にありがとうございました。

以上、2ヶ月間のプロジェクトを終え、石川淳教授から今回のご感想を伺いました。この期間が学生の皆さんにとって少しでも学びがあり、今学んでいることがどのように実務の現場に活かされるのか、企業と取り組むことの意義を感じてもらえたら嬉しいです。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。