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【音楽語り】さわやかに見せかけて厄介な男「The Man Who Never Lied」【洋楽】

 中学生の頃によく聴いていたマルーン5。
 歌詞の意味はまったく分からなかったが、とにかく洋楽特有のクールでヒップな音楽とはこういうものか! というのを初めて実感させてくれたグループであり、初めてアルバム単位で曲を聴いたアーティスト。

 有名どころは「Suger」や「Payphone」だが、これは初聴の時にはあまりピンとこなかった。中一の自分が断然好きだったのは「Animals」。このタイトルすら読めず、「なんかずっとアニモー、アニモーっつっててカッコいい」ぐらいのふざけた認識だったが、ファンだったのは本当です。
 だって超カッコいいもん。それも、単にノレるとか、単にアガるとかじゃなくて、多用されたテクスチャーの印象のせいか、なんか異次元に連れてかれそうになるような異質な音の、この感じ。無機質だけど激しい。理性的であり野生的。無表情だったり、穏やかな顔だったりもするんだけど、よくよく見たらどの曲も瞳孔ガン開き。つられて聴く方もガン開き。今ところ私はマルーン5ぐらいでしかこの感覚を体験したことはない。

 しかし、その後ボーカロイドだの最新の邦ミュージックだのヒップホップだのに手を広げていったせいで、だんだんマルーン5を聞かなくなった。せいぜい「Lucky strike」がプレイリストに入ってるくらい。Spotifyでふと、過去に聴いたことのあるアルバムを探ってみたのも、単に受験勉強に気が乗らなかった現実逃避のためだけだった。

 それでこんな脳みそブチ抜かれることになるとは。
 宣言します、私は中一の頃よりもずっとずっと英語ができるようになっていました。思っていたよりもずっとずっと理解できるようになっていました。

 かつて曲にブチ抜かれた私は、今度は歌詞にブチ抜かれることになった。それは印象深い「Maps」や他の数々の曲でもなくて、ほとんどノーマークだったこの曲「The Man Who Never Lied」。
 「嘘を吐いたことがない男? なんか星新一のショートショートみたいな設定だな」とかタイトルを一瞥して思った私は、英語歌詞をパッと見て、ようやく、マルーン5があれだけ「洋楽ロマンス・ソングの代表」と言われる所以を理解した。そう、お恥ずかしながら、音だけで好きになっていた今まではロマンス要素なんてまったく気付いていなかったのだ(「Animals」さえ「野外戦してる軍の秘密部隊のテーマソングみたいでカッケー!」という認識だった。なぜかそういう想像力はある)。

 和訳サイトなんて開けないので、直感で意訳していこう。刮目せよ、これが受験当時高校三年生の私の英語センスだ!


 In the middle of hollywood boulevard
 Screaming at each other,
 screaming at each other
 Like oh oh oh, can't take it anymore oh oh oh

『ハリウッド・ブルーヴァード(大通り)の真ん中で叫びあった、
 互いに泣きあったよ
 ああ
 まるでもう耐えられないというように』

 Like a tragedy, like a dark comedy
 Laughing at each other,
 laughing at each other, like oh oh oh
 It isn't funny anymore, oh oh

『悲劇のように、あるいはダーク・コメディ(風刺劇)のように
 互いに笑い合った、笑い合ったよ
 はは
 少しも楽しいことなんてないのに』

 I was the man who never lied
 Never lied until today
 But I just couldn't break your heart
 Like you did mine yesterday

『僕は嘘を吐いたことのない男だった
 今日まで決して嘘を吐かなかったんだ
 でも僕は君の心を壊すことが忍びない
 君が昨日僕の心にそうしたようにね』


 さあどうだこのサビの破壊力は!!!!!
 たった四センテンス! 直接的なことはなにも言ってない! なのに何があったのかが分かるし、今なんの話が裏で進行しているのかも分かるし、歌っている「僕」が今どんな表情をしているのか、「君」がどんな恋人だったのかも全部全部分かる!

 さわやかで暖かい曲調とめちゃくちゃマッチしてる軽快な歌詞、ハリウッドにダークコメディというおしゃれな例え、そしてその都会的なスマートの上で進む一つの別れ、交わされる優しいがほんのり皮肉げなやりとり、その裏にある諦念と底の底の底に隠された未練の顔……。
 わあ〜〜〜! そりゃ中坊にこの情趣が分かるわけがないんだわ!!!

 Sometimes honesty is the worst policy
 Happy ever after, happy ever after
 Let it go, oh oh, you never need to know, oh oh

『時に正直さは最悪な信念にもなる
 どうか幸せに、いつまでも幸せに
 さあ行って、君は知る必要のないことだ』

 I don't wanna be picking up all of these
  tiny little pieces, tiny little pieces
 Of your heart, oh oh, won't do it anymore, oh oh

『僕はもう君の心のこの小さな小さなかけらを拾い集めることはしたくないんだ
 僕はこれ以上何もしてあげられない』


 あ〜〜〜うまくいかないカップルだったんだろうなあ〜〜〜!
 正直さを信条にしてる男(優しそうな顔して絶対意見とか譲らなそう)と彼氏に自分の傷ついた心をケアさせる女(男かも知れないけど)だって、さあ、ねえ、上手くいくわけないじゃん???

 でもなあ〜〜〜! 好きだったんだろうなあ〜〜〜めちゃくちゃ!!!
 大好きじゃん? 好きすぎてたぶん憎さ百倍になりそうなのを必死で堪えてんじゃん? だってそうじゃなけりゃ「君の心を壊したくない、君が昨日僕にしたようにね」なんて優しげに突き放すこと言わんじゃん?

 自分はこういう時の男の「君は何も知らなくていい、君を傷つけたくないから」的なムーブが嫌いなんだけど(ちゃんと正直に話せや〜勝手に彼女との話し合いの場から降りといて悲劇のヒーローぶるな〜! という気持ちになる)、この歌詞は同じことを言っているようでむしろ逆。たぶん歌の主は、自分の「嘘」や未練を相手に明かさないことは、優しさのフリをした残酷な当てつけ、それどころかちょっとした復讐であることを知っててやってる。

 I was the man who never lied
 Never lied until today
 But I just couldn't break your heart
 Like you did mine yesterday
 I was the man who never lied, oh oh oh
 I was the man who never lied, oh oh oh

『僕の気持ちなんか君はどうせ一生気付かないまま通り過ぎて行くんだろうね。ああそうかい、どうぞお幸せに。いや、いいとも、僕だって君にはうんざりだよ。お互いに潔くなろう、だって君は平然とそんな残酷なことができる人でしょう?』(飛躍的意訳)


 うわ〜〜〜面倒くせー男だ!!!
 きっと超面倒くさいカップルだったんだろうなあ〜〜〜でも好き同士だったんでしょ〜〜〜はー好き!!!
 曲は本当にさわやかで、ハイウェイをオープンカーで滑走しながら流したいくらいcool&chillなのに、歌詞を聴いてみればチクチク皮肉っぽい男の恨み節。ギャップって何の組み合わせでもグッとくるんだな……ということをしみじみ実感させられる。
 英語の歌詞でこんなに湿っぽい情感に触れたのは初めての経験だった。
おみそれしましたMaroon5、さすがロサンゼルスのロマンスの神様……。
(ちょっと違う気がする……)


 人は最新の流行を追うのに疲れたら、懐古に戻ってくるもの。自分はそのサイクルにのって、今度はマルーン5の歌詞和訳の旅をしてみようと思う。
 ……英語、がんばろ。

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