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【エッセイ】祖母の骨ばった指

【2019年 She is掲載記事 特集・ぞくぞく家族(イラスト:sasakure様)】

祖母にしか見えない
虫がいる
針で潰そうとしたのか
テーブルにあいた穴
認知症の深さのよう

私が大学生のときから、祖母は私に対してのおかしな発言が目立つようになりました。近所の方や親戚に、私には全く身の覚えのないことを、さも本当のことのように話すようになったのです。なんで私ばっかりこんな目に、と思うこともありました。

8年前から続く
祖母の妄言
信じた伯父から
あやうく頂きそうになった
出産祝い

このような妄言の他に、ここ数年は幻覚・幻聴もひどくなってきました。
現在、歩行がままならない祖母を、父が毎日お風呂に入れ、母は買い物に行くとき以外は祖母の面倒を見ています。

緊急時にはすぐ父が仕事から飛んで帰ってきます。深夜に起こされることも多いのだとか。祖母と口論になりそうになり、一生懸命感情をおさえる毎日だそうです。

祖母は「家に帰らないと」とよく言います。「帰らないといけない」という考えは日に日に増し、荷造り(血圧計や薬などをまとめる)をするようになりました。毎朝母が元の位置に戻しますが、また荷造りします。

祖母の記憶から
早く消えたかった
けど会うと
覚えていてくれて
なぜかほっとする

少しほっこりした出来事があります。私がぬいぐるみをプレゼントしたところ、毎日の荷造りの中にそのぬいぐるみが加わりました。エプロンや帽子などにくるんで置いてあると、母はつい笑ってしまうそうです。「孫からもらった」ということは覚えているらしく、嬉しく思いました。と同時に、覚えていてくれることにほっとしている自分に驚きました。あれだけ祖母の記憶から消えたかったというのに。

なんとか認知症を食い止められないかと考えもしました。手を使うと脳が活性化するかと思い、ぬりえや押し花の本、日めくりカレンダーなどをあげました。しかし、しまいこんでしまって使ってくれません。畑仕事や酪乳の仕事をしていた祖母は、まだ外に出て草むしりなどをやりたいそうです。

祖母の骨ばった指
その第一関節を
撫でたとき生じた
春の風が
野のつくしを見せた

祖母の背負籠を
小さい手で押して歩いた
畑からの帰り道
籠の中のキャベツと目が合い
茜色のほほえみを交わした

今は嫌なことが多いかもしれませんが、私が幼い時に、祖母からもらったものは大きかったと思います。一緒に暮していなかったら得られなかった思い出がたくさんあります。

たとえば、一緒に畑で畝を作ったり、肥料のための石灰を撒いたり。じゃがいも掘りやトマト、きゅうりの収穫など温かな記憶が残っています。家は坂の上にあるので、畑仕事用の一輪車を私が押して、祖母は籠を背負って、「よいしょよいしょ」と登りました。先に私が登りきったら一輪車を置いて、また祖母のもとに戻り、籠を後ろから押して登りました。今でも鮮やかに思い出せます。

介護。立ち向かってる人は、今の時代とても多いと思います。在宅介護をする人や、デイサービスやショートステイを利用する人などそれぞれ。私も家族と一緒に考え、向き合っていきます。

みなさんはどのように向き合っていきますか?

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