メメントモリのスパイス|ショートショート 前編
「こちらのシナモン、カルダモン、クミン、さらにすこしだけジンジャーパウダーをふりかけます。このジンジャーパウダーがピリリと味をひきしめますよ。」
TVの中では、おおげざな笑顔を貼りつけた料理研究家がシナモンロールの作り方を説明している。
陽南実は、おおきくため息をついた。
自分以外の人は、みんな上手くいっているように見える。そんなことはない、と頭ではわかっていても深く落ち込むこの気持ちをとめることができない。
疲れ切って、何が楽しいのかもわからない状態だった。
そんなどうしょうもない状態でも陽南実のお腹は音を立てる。
繁忙期に入り会社と家の往復が続き、家の中で食べられるものを探しても、お返しにもらった海苔くらいしかない。
とにかく何かお腹に入れたい、そんな気持ちで商店街を歩いていた。
突然、強く濃厚なスパイスの香りが陽南実の鼻を占拠する。暴力的な香りに選択肢を奪われ、強制的に店の中へ引きずりこまれた。
小さな喫茶店の中に入ると、店内は様々なガラクタで埋め尽くされており、まるで古物屋のようだった。
「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたら、お声がけくださいね。」
店の雰囲気とは合わない陽気なスタッフが浮かれた様子で近づいてくる。
「カレーを1つ……」
しっかりと人見知りを発動させながら、注文をすませると陽気なスタッフは、スパイスを選ぶよう迫った。
「この店のカレーはスパイスを自由にえらべるんです。自分好みのカレーにしてみませんか?」
「スパイスはくわしくないので……」
「スパイスの効能を記したメニューを見てお選びいただくので、難しいことはありません。スパイスのチョイスは“今の希望”ですからね。どっちに転んでもおいしくなりますよ!」
陽気なスタッフは自分で言った言葉のどこかが可笑しかったのか、くすくす笑いながらメニューを置いていった。
良いのか、悪いのかわからない効能があるスパイスの名前が、ざっと見ただけでも100個以上並べられている。
陽南実の目を引いたのは“メメントモリ”だった。
今の陽南実は週末までなんとかやりすごす、そうやって日々を消化している感覚がある。生きているということを考える暇もなかった。
カレーで人生が変わるとは思えないが、コンセプトカフェのような仕掛けでおもしろい。
陽南実はメメントモリと、キャランウェインを選びスタッフに伝えた。
……続く。
【あとがき】
カレースパイスの表記にはこちらのサイトを参照させていただきました!
カレー食べたい。
メメントモリってなんなの?てなったので書いたお話です。
2つの意味があるってのがおもしろいし、物語になりそう。
今日は時間が迫ってきたのでここまで!
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