僕が贈る最後の唄 #春ギター|毎週ショートショートnote
僕はもう、涙なんてでないと思っていた。
吉祥寺の駅を降りたら、サーティワンを背中にして横町へ入る。横町を抜けて、一歩右へ入った路地の正面に大きくそびえたつビル。そのビルの2階に教室はあった。
老後の趣味にとはじめたおじいさん。
演技に必要だと習いに来たおねえさん。
ロックの歌姫に憧れてやってきた僕。
そして、きみ。
きみと過ごした三か月はとても濃厚で、出会ってからのすべての日のことを鮮明に思い出せる。
それは日記に記していたからのおかげもあるんだけど。
息の仕方を忘れてしまった僕が教室へいった最後の日、センセイがくれたのはお店のチラシだった。
でたらめな色に髪を染めたセンセイは、見た目よりもずっとやさしい。
「もういやになっちゃったかもだけど、ここのギターはとくべつだから。」
店はすぐにみつかった。
沈丁花の香りに惹かれてドアを開ける。
花の香りが店の中を埋め尽くす。
『春ギター ご自由にどうぞ』
しっとりと手に吸い付くネック、軽やかで甘い香り。
弦をなぞると、香りが一層強くなる。
僕は嗚咽を堪えながらギターをかき鳴らした。
これがもう会えないきみへ向けて、僕が贈る最後の唄。
【あとがき】
今週もたらはかにさんの #毎週ショートショートnote に参加させていただきます。
今週のお題は、
なんかもう青春爆発ってかんじのイメージしか湧かなかったので、私の遅い青春の場所、吉祥寺を引っ張り出してきました。
ギターはおろか音楽にはまったく関わっていない人生ですが、吉祥寺にはギターを背負った若者がいっぱいいたよな。ということを思い出したりして……ああ、色々思い出したらすっぱいなあ!
最後の歌ってRADWIMPSの歌であったな。
遅い青春をしていた時の、思い出の曲の1つです。
たらはかに(田原にか)さんの企画はこちら↓
前の週のお題で書いたものはこちら↓
※画像はCanvaAIで作成
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