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脳内でリピートされる6月の変化。|ショートショート

多分、この風の匂いだ。

胸がざらつく。
裸足で外に飛び出したあの日。

暑くなる少し前のじっとり水気を含んだ重い空気の匂い。

あの日が来る。
なん度もなん度もリピートされ、記憶が薄れないよう上書きしていく。

こんな日は深く深く暗い沼の底で眠るか、そっと草陰を進んで、赤い屋根の小さなお家の庭を覗く。

3つくらいの小さな子どもが、でたらめに鳴らす鈴の音に合わせて、白くて柔らかそうなドレスを着たお母さんが、ピアノを奏でる。

あの日、強く望んだ私の願いは叶えられ、気づくと、美しい鱗に覆われた気高い生き物に姿を変えていた。

戻れないし、声も出ない。

孤独で美しい生き物には、森の者たちでさえも近寄らない。

森の王である私に手出しをするものはない。

裸足の足も、もうない。

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