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展示-書道/アート・ブレイキーの1枚目ってどんなんだったんだろう

 「アレだろ?ジャズってのは…」「ホラ…アレだ。和太鼓とか、青森の津軽三味線みてえなよ、」「なんかハゲしいやつだろ?」
 ジャズをテーマにしたマンガ「BLUE GIANT」の中にこんなセリフがある。主人公が、自分が感じている「ジャズの魅力」を言い表せず、もどかしい思いをする中でバイト先の店長から何気なく出てきたセリフ。この言葉を聞いて、主人公は「近い!」と叫ぶ。

 年末に、書道塾の展示をした。
 技術を学ぶクラスではなく、参加する人が得意技と今日のテーマを持って集まってくるワークショップの場。それはもしかすると、むしろジャズのセッションに近い。
 その場の「いま」、その人の「いま」をよく感じて、次の1枚を促す、書き上げていく。主催者も共演者も、本人すら知らない、そこにしかない次の1音/1枚が生まれる場所。こんな場所は、ライブが面白い。作品が生まれてくるその場の「いま」が面白いハズだ。
 そんな場所で生まれる作品を展示するのは、迷う。

 アート・ブレイキーはジャズドラマー。ドラムソロがかっこいい、それ以上に激しい。冒頭のセリフは、まさにこの人のためにあるのだろうと思う。和太鼓の演奏のように激しい。「ジャズってこんな感じ」というイメージを拡げてくれる、ジャズだ。
 そう、書道は固定されたイメージを持っている。学校教育でやらされた、「青空」と書いた、アレ。一部の人にとっては、書道教室でたくさん教えられた筆遣いかもしれない。
 ところが、今回の展示は違う。チョイスされた作品のタイトルだけでもそれは分かる。「カラス男爵」「鯵」「丑三つ」「凹凸」。なんじゃそりゃ、なのに、素晴らしい。またしてもBLUE GIANTの言葉を借りることになるが、「最初から咲いている」作品たちだ。

 新春リリースアルバムを組むつもりで臨む。あくまで、街中のディスプレイとして馴染むように季節感を全面に出す。ただし、「固定されたイメージとしてのアレ」にだけはならないように気をつける。セットリストは、必ずしも技術力の高い臨書だけではない。むしろ、「二度と演奏されない、その人が圧倒的成長を遂げた伝説の夜のライブ音源」みたいな作品の方が多い。
 半紙、パネル、折り紙。工業製品をつくる側の都合による規格に、あえて合わせた。インダストリアルなヴァナキュラー性みたいなもの。結果的に、「アレ」にならずに佇まった気がする。

 アート・ブレイキーは1990年に亡くなったので、もちろん生の演奏を聴いたことはない。ライブ音源はあっても、新しい1音が生まれる場に立ち会ったことはない。
 この書道塾は、もちろんいまも開かれている。そのとき、その場でしかできない1枚が、今日も生まれている。そしてここがすごいのだが、本当に誰でも参加できる。
 そういえば、アート・ブレイキーの1枚目のアルバムってどんなんだったんだろう。色んな人の「1枚目のアルバム」をつくれたらいい。売れることやかっこよさも大事だが、それ以上に、しっかり話を聞いて誠実に取り組む仕事。

 その1枚がリリースされることが、本人のエンパワメントにつながるように、祈りと共に。

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