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アレンジが完璧@映画「カラオケ行こ!」【映画感想文】

※原作既読で、内容に触れている感想文です。


観る前の懸念を吹き飛ばした見事な「映画化」

観る前は、映画のコンセプトがちょっと違うのでは…、と思ってたのですが、初日から評判が良く、なんだかうずうずしてさくっと観に行きました。

結果、すっごく良かった。この映画、めっちゃ好きです。

まず、映画化にあたって、聡実のモノローグを無くして、オリジナルエピソードで彼の心情の変化を描く選択。この手法そのものがかなり思い切っていたと思うのですが、実に上手くハマっていました。

なぜかって、オリジナル要素が、すべて原作の世界観を広げた上に存在しているような絶妙な味付けがされていたからです。

映画を観る部だとか、聡実の両親、合唱部、すべてに和山作品ならではのほのかなシニカルさとユーモラスさが漂っていて、違和感なく作品そのものに浸れました。

観た後で生徒の描写は「女の園の星」を参考にしてほしいと要望があったと聞いて、赤べこのように頷くしかなく…。男女ともに湿度を持たせず、からっとした個性で作品に悪目立ちしない匙加減が実に良い。

オリジナルエピソードでは、特に合唱部のパートが好きです。さっぱりとした青春模様、なにげないやりとりが微笑ましい。この辺の温度感は脚本家の風味なようで、青春映画をよく撮られている監督の手腕なのかもしれないですね。

特に好きなのが、和田君を追いかけて行った副部長にサラっと「子守だね」と返すところ。昔なら変にはやし立てたり(別の場面で「三角関係とか想像したやろ」と聡実君が怒るようなありがちなあれ)、そういうなんにでも恋愛に絡ませるこの世代のありがちな描き方が全然なくて、観やすかった。

「映画を観る部」も話の進行にしたがって、ある意味わかりやすくテーマに沿った映画の一場面を通して聡実君の心情の変化を描くのに一役買ってましたが、見た目上はあくまで平淡に感想を述べあったり独り言のような会話をしたり、終始独特の間でありつづけたのが良かったです。

お正月に突然アップされてた映画オマージュのポスター、おふざけかと思いきやちゃんと理由があったんですねえ(わからない、それは)

あと、作中で、愛とはなんだろうか というぼんやりと横たわるテーマで、鮭の皮を分け合う夫婦の場面のシュールさが好き。野木脚本らしさと和山先生らしさのハイブリッド……、かなり相性良いのでは…?

……ああつまり、オリジナルエピソード、全部好きでした。

当初、バディムービーという売り出し方をしていたのに拒否感すらうっすらあったのに、出来上がったものを観てみれば、悩める中学生の成長物語といった軸を強くし、あくまで彼の視点・立場で物語を紡いだ一貫性があり、青春映画として素晴らしい仕上がりでした。

それはおそらく、意図的なものだろうとも思いました。
ヤクザと十代がかかわるという描写は(実年齢の子が演じるのもあり)、リアリティの持たせ方が非常に難しかったと思うのです。実写化にあたって、学生生活の描写を深め、ヤクザ描写はリアリティは最低限にとにかくコミカルに描く。必要に迫られた選択だとしても、これらがとても巧いバランスで練り上げられていたなと思います。

また、そうくっきりと描き分けられていたことで、本来触れ合うことのない世界に生きる聡実と狂児の二人が、あらゆる常識ですれ違いつつも人と人として絆を育んでいく面白さがかえってしっかりと伝わってくるようにも思いました。

映画はだから、青春の巻き戻せない時間の中で、本来ありえないほんのひとときの忘れがたい邂逅を描いた、そんなイメージでした。そして、それが良かった。

あまりにも十代の日常には異質すぎる世界を覗いたものだから、聡実自身も幻だったかと疑ったけれど、名刺を確認した彼は、「おるやん」、とそっとつぶやく。安堵がこもったような、柔らかい声音で。……素敵な場面でした。

そんな異質の存在たる狂児は、一貫として何を考えてるのかわからないままで、中学生をあしらっているかのようでもあり、これ以上なく親しみを抱いているようでもある。プレイリストをもらったあとのへにゃっとした下りや、屋上の会話を見ると、後者だろうと思わずにいられないし、そのはずです。だってあの紅を聴く表情の柔らかさといったら、ももちゃん先生言うところの「愛」(胸に手を当てつつ)しかなかったですし。

違う世界に生きる同士だとわかっていても。
見えない情そのものは、簡単にはなくせないものです。

あと余談というか本質というか、綾野氏のスタイルが良すぎて観るだけで心の栄養が蓄えられていくので、ひたすら、凄い(?)。

聡実君は原作よりもわかりやすく感情の変化がとらえられて(娯楽映画としては必要なアレンジかな)、切れ味鋭い台詞を吐きつつもナイーブな年ごろらしさが良く出ていた。こちらも素晴らしかった…、スレにスレた存在との対比が完璧。終盤の絶唱は圧巻、実年齢だからこその迫力で、紅の歌詞が胸を痛いほど突いてくる。実写ならではの説得力と感動を巻き起こしてくれました。

もう大満足です。
「ファミレス行こ。」も同じキャストで映画化しましょう、是非に。

紅、サイコー…!、でした。

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