映画「イノセンツ」を観て【映画感想文】
※ネタバレあり感想文です。
・子どもたちだけの世界で完結する潔さが巧くて、鮮烈
キャッチコピー、「大人には、秘密」が示す通り、
この映画の展開そのものに、大人は一切関与しません。
子どもが戦うフィクションに対しては、「こんなにひどい目に辛い目に子どもが遭っているというのに、大人は何をしているんだ」という指摘があったりしますが、この映画においては、そもそも大人は蚊帳の外であり続けます。
まず、その潔さが良かったです。
中途半端に大人が介入したり、勘付いたりすると、この映画世界を構築している緊張感や異常感の手触りが薄くなって、凡庸になってしまったことでしょう。
子どもたちは、彼らの世代のみが共有する小さな世界で、
友情をはぐくみ、秘密を共有し、憎悪を生み、決別を誓う。
その揺れ動く感情の荒波は、幼い者にありがちな極端さと、大人が持ちうる狡猾さを併せ持ちます。その危うさがどこまでも子どもらしく、だから先が読めずに、物語の行方をただ見守るばかりとなりました。
・超能力は、万能ではないただの厄介な「スキル」
古今東西いろんなメディアで描かれ続けている超能力ですが、とりわけ今作ではそれを子どもが持つ危うさをとりわけ強く描いているように思いました。
友達に邪険にされる、親が鬱陶しい、きょうだいの存在が疎ましい、
そんな細々とした不満が、超能力でふっと解消したら、きっとすごくスッとします。自分は特別だと、万能感を抱いて当たり前です。
けれど、相手もそう思うかというと、そうでもない。
他人は他人の感想を持ちます。凄いものだと言われても、必ずしも思い通りにはなってくれません。けれど、子どもだから、そんな他者の目線では想像できないので、不満を募らせていくのです。素晴らしいものなのになんで理解できないのか、と。
物珍しいスキルに子どもは群がるものだけれど、
理解を超え、共感性を失えば、途端に放置される。
ちょっと変わったステータスとして、距離を置かれるだけ。
この映画での超能力は、そんなただの厄介なスキルと化していくさまを、生々しく描いていました。
自分の思い通りにならない不満はやがて、自らの破滅をもたらしていく。
その過程が絶望的に描かれ、結末にも容赦がありませんでした。
審判を下すのもまた子どもだったから、でしょう。
「和解」を知らず、「殲滅」にしか思い至らないのです。
気味が悪いから虫を踏み潰す。まるでそんなシンプルな結論を、あの静かな静かなラストバトルは描いていました。
・子どもの闇ではなく、「らしさ」を突き詰めて描いた作品
子ども同士で結果的に殺し合うことになっていくこの映画ですが、
まだ幼い世代の心の闇を描いた作品というよりも、
超能力という思いもよらないハプニングに翻弄されて各々が知る術で必死に生き抜こうとした姿を描いた作品だったように思いました。
アナ、イーダ、アイシャ、そしてベン、彼ら彼女らが、彼らの幼い人格で、狭い世界で、限られた知識で、どう戦い、自分と大切な人たちを守ろうとしたのか。
その姿をとてもリアルに描いていたから、きっとずっと長い間、彼らの戦いを忘れられないだろうと思いました。
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