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お互いのあれから(40)

 席に就くと、秀は「きょうは来てくれてありがとう。時間大丈夫?」と聞いてきた。「わたしは時間は大丈夫」と答えた。少し、間があった。
 ことしの夏、元気な姿を見せるために、家族4人で里帰りしたんだ。俺が事故ったことで、すごく心配をかけたからね。それで、琴引浜に泳ぎに行って、その時、ずっと思っていた、何か大事なことを忘れているというぼんやりした不安が消え去って、あの日のこと、マヤのこと、香奈子にはマヤに会った翌日別れを言っていたことを思い出したんだ。香奈子は俺の彼女と家族も認識してて、俺が別れを言ったことを知らなかったから、お母さんが携帯を香奈子に預けてたらしくて、その間に、マヤの履歴と連絡先全部消してたんだ。それで、マヤのことは何もなかったように、振る舞ってたんだ。ふたりの別れなんて全くなかったようにね。マヤのことは一言も話さなかった。思い出したことはまだ香奈子に言ってない。バイト先のメンバーならマヤの連絡先知っていると思って、明日香さんに連絡して、マヤの連絡先を教えてもらって取り戻したんだと一気に話した。「マヤはこの1年半の間はどうしてた」と秀は聞いてきた。
 わたしは、連絡したくてもカナコが携帯を持っていたからできなかったこと。その間一度渋谷でカナコに会ったこと。バイト先で一度秀と会ったときは、記憶をなくした秀にこれ以上負担をかけたくなくて、何も言えなかったことをゆっくりと時々、記憶を手繰り寄せて話した。

お互いのあれから(40)

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