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山椒太夫 オオサンショウウオの住む社会

先日、京都水族館にクラゲをスケッチしに行った。

たが、クラゲより長い時間、惹きつけられ観察してしまった生物がオオサンショウウオだ。天然記念物で絶滅危惧種。世界最大の両生類。恐竜を彷彿させる存在感。

京都水族館の入口で出迎えてくれるのが、鴨川で捕獲されたオオサンショウウオだ。1匹だけ別水槽に入って展示されている。希少な日本古来種。

近年、食用として持ち込まれた外来種との交配が進んでいることが問題となっている。他の水槽には沢山のオオサンショウウオが折り重なっていた。

北王路魯山人がオオサンショウウオを焼くと山椒の香り、じっくり煮込んで食べたら美味と言う記録を残している…身近に食べられていた食材らしい。

その名前の通り、驚いたり危険を感じると、ぶつぶつの皮膚から山椒に似た臭いを放つらしい。

夜行性だから目が退化していて、あまり視力もない。どこにあるのだか分からないくらい小さい目。…裂けたような大きな口は、近づくものを何でも飛び付いて食べる。魚類、沢蟹、蛇、川鼠などをバリバリ食べれる位に歯が鋭く、顎の力があるので、近づくと危険なのだとか…その割にプックリと可愛い手指をしている…萌えポイント。

昼間は岩陰に身を寄せてじっとしているから、綺麗な水と岩のある環境が必要で、真っ平らにコンクリート舗装された川だと流されてしまったり、澱んだ川では、他の生き物がいないから生きていけないのだという。

私がじっと水槽に張り付いると、流石にオオサンショウウオも私の執拗な視線を感じたのか否か、急に少し口を空けて、あくびのようなリアクションをして、手足を動かした…ちょっとビビった…


オオサンショウウオは大山椒魚。        発想は単純に『山椒太夫』を思い出した。    溝口健二監督。1954年日本映画。

内容は子供の頃読んだ、『安寿と厨子王』だ。貴族の親子が人買いに騙されて母と姉弟とが、離れ離れに引き裂かれ、それぞれが不幸に見舞われるも、最後に息子が母を見つけ出す話。

映画では、騙されて奴隷商に売られてからの生活や仕打ちが酷くて悲惨で残酷で…こんな風だったっけ?と、自分の記憶を掘り返してみたが、映画ならではの演出かと思っていた。

後で知ったが、安寿と厨子王は口頭で語り継がれてきた説話らしく、色々な語り口があるようだ。奴隷的な扱いや差別されている人々の怨念が、凄惨な復讐話になっているものもあるとのこと。

私の記憶にあるような、親子愛や姉弟愛で語られるのは森鴎外のものが有名なのだとか。

映画は虐げられた人々の痛みを痛烈に感じさせる。そう言えば、溝口監督の他の作品『西鶴一代女』『雨月物語』も、貴族や庶民の卑しさを分け隔てなく描いていた。人生をドン底まで突き落とした上で、それでも凛と存在する人間性を描いている。仏様の御加護も必ずそばにあり、心の拠り所となっているのも印象的だ。

実際にオオサンショウウオを観て、その特質を知ってから、『山椒太夫』のタイトルを考えてみると、貴族の姉弟の安寿と厨子王を買った奴隷屋敷の主人が山椒魚のように、貪欲で醜く危険な人物であったことの隠語だろうなと思う。そして、そんな人物はかつてはどこにでも存在していて、庶民を襲い、逆に血祭りにされ、征伐される存在でもあったんだろうなと想像する。

余りに巨大な両生類、身近にいたら怖いと感じる迫力。だけど、危険な人物と言う比喩を抜きに、生物としてその希少な存在は保護して行かなければならない。

綺麗な川、綺麗な水、綺麗な環境は人間にも絶対必要なもの。オオサンショウウオが生存出来る環境こそ、人間にも相応しい環境に違いない。




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