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おじいちゃんの孫との散歩が夕方じゃなきゃダメなワケ


前回の記事では、一昨年亡くなった母方の祖母について書いた。

母方の祖母はそこで書いたように、私にとっては育ての親のような存在だった。母方の祖父も右に同じだ。

祖父は私が高校生の時になくなってしまったが、今回はその祖父について書こうと思う。

私が3歳まで山梨の祖父母のもとに預けられている間、毎日夕方になるとおじいちゃんは孫の私を連れて散歩に出ていた"らしい"。

”らしい”というのは、幼かったこともあって、私自身はしっかりと覚えていない。覚えているのはおじいちゃんと何となく裏の公園に行ったなとか、お店に寄ったなとか、その程度なので、今回は私の朧げな記憶と生前おばあちゃんから聞いた話を交えて書くことになる。

おじいちゃんとの散歩は決まって夕方、晩ご飯の前だった。
「何か夕飯で足りないものあるけ?買ってくるど。」
というおじいちゃんからおばあちゃんへの決まり文句から、私とおじいちゃんの夕方散歩は始まる。

おじいちゃんとの散歩コースは、家の裏の方にある公園に行ってしばらく遊んでから、公園横の酒屋さんで夕飯の足しになるようなものを買って帰るというシンプルなものだった。

夕飯前の孫との散歩が日課のおじいちゃん。

とくにそれは何か目立って変わったところはないけれど、おじいちゃんには夕飯前に孫の私を理由にして散歩に行くワケがあった。

おじいちゃんはお酒が大好きだった。
しかし、おばあちゃんに健康に注意を払うようにいつも厳しく言われていたため、唯一お酒を許されていた晩酌の一杯以外に大っぴらにお酒を飲むことができなかった。

楽しみにしている晩酌の前にもうちょっと飲みしたいけど、家で呑めば、おばあちゃんに注意されてしまう…ということでおじいちゃんが思いついた作戦が前途の孫との夕方散歩だったというわけだ。

本当の散歩コースはこうだ。
家の裏の方にある公園に行ってしばらく遊んでから、公園横の酒屋さんで夕飯の足しになるようなものを買うついでに、缶チューハイも一つだけ買って帰るというものだ。

さて、買った缶チューハイをおばあちゃんにばれずに飲むには、どうすればいいか。こっそり飲んで空き缶をこっそりゴミに捨てる方法はいくらでもあると思うのだが、おじいちゃんはそうしなかった。というより今思うと、本人はこっそりやっていたつもりだったのかもしれない。

ここからの行動が何度思い返しても、実にお人好しで嘘のつけないおじいちゃんらしいなと思う。

おじいちゃんは買った缶チューハイをそのまま家に持って帰り、私を家に上げた後「ちょっと用事が…」という様子で家の裏にいつも消えて行ってしまうのだ。そして、家の裏で缶チューハイを飲んでくるのだ。

しかし、台所の窓は家の裏に面しているので、おじいちゃんの缶チューハイを飲んでいるシルエットが、すりガラス越しに夕飯の支度をしているおばあちゃんに丸見えな上に、静かに缶を捨てればいいものをいつも放り投げて捨てているので「カーン」と高い音まで響かせていた。そしてその後いつもおばあちゃんに注意されるの繰り返しだった。

おじいちゃんは嘘をつけないのでばれても同じ方法でそれを何度もやっていた。

だが一時、缶チューハイを家の裏で飲むのを見なくなった時期があった。
健康を気にするようになって缶チューハイはやめたんだろうとおばあちゃんは思っていたが、ある時おばあちゃんが客間の掃除をしていると、ステレオの裏から空き缶が出てきた。

違う方法を思いついたとしても、やっぱり嘘をつけない人という感じがして、おじいちゃんらしさを感じてしまう。

こんな感じでいつもおばあちゃんに注意されていたおじいちゃんだったが、いつも朗らかにニコニコしている人で、注意されている最中は気まずそうに「へへへ」と笑いながら私にこっそりウインクをくれていた。
そんなおじいちゃんのことが私は大好きだった。

もし、今もう一度一緒に夕方散歩ができるなら、どんなにいいだろう…大人になった私がおじいちゃんを連れ出して、おばあちゃんに内緒で一緒にお酒が飲めるのにと思ってしまう。





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