#5 2021-5-28

あまり勉強時間とれず。

こちらの記事がやはり面白いな

『培養できない微生物たち -自然環境中での微生物の姿-』
(Rita R. Colwell,学会出版センター)
 もしも目の前に感染症を疑わせる患者がいたら,どのようにするだろうか。
症状である程度あたりをつけ,血液検査などを行い,同時に細菌検査を行うはずだ。
そして喀痰や糞便を採取してそれらを寒天培地などで培養し,そこで培養できた菌を感染起炎菌と考え,抗生剤を投与して・・・という手順を踏むはずだ。あまりにも当然過ぎる手順である。

特に,「細菌は培養して同定する」というところに疑問を持つ医者はほとんどいないと思う。細菌は培養できるもの,というのが常識だからだ。

ところが,この20年くらいで,微生物の専門家の間では,この「常識」が完全に否定されている。

自然界には「生きているが培養できない細菌 Viable But NonCulturable (VBNC)」がたくさんいて・・・というより,圧倒的多数の細菌はVBNCの状態で存在していることがわかったからだ

つまり,培養できる状態の細菌は自然界の例外中の例外の細菌だったのである。

以前の記事でも引用させていただいた記事から抜粋

今回の騒動でコッホ原則が多くの人の目に触れたことだろう
病原性の証明としてこれ以上な論理的なもののはずだが一度たりとも満たされた病原体は存在しない
従って、細菌やウィルスが病気の原因とする理論は誤りである、と


だが、そもそもこの原則自体に欠陥があることを指摘する人はなかなかいない

理論自体の反駁はベシャン博士の研究を紐解けば、Germsと呼ばれる存在の正体がどういうものなのかが一発で判明し、こんな原則など「満たせるはずがない」といえるのだが、手続き自体の誤りは稀だ


では,この過程のどこに問題があったか,おわかりだろうか。
それは「培養し」という部分である。

実は「培養」という操作自体が,細菌をセレクトしていたのである。
つまり,培養そのものが実験系のバイアスだったのである。

これは古細菌と呼ばれる細菌(私の記憶が間違っていなければ化学独立栄養細菌,メタン生成菌,硫酸還元菌などがそうだったと思う)で以前から指摘されていた。
こういう細菌は,実験室のあらゆる培地で培養できなかったからである。

しかし,顕微鏡を覗くと,そこには無数の細菌がいる。
しかも,ATP生成を調べると,明らかにその細菌たちは生きているのである。このような知見から,VBNCという概念が1980年代に提唱され,現在では揺るぎない事実として認められているのだ。

どうやら自然界の細菌はほとんどが休眠状態のような形態をしているようだ

ブログだから本だからソースに乏しいとかいうメンドクサイ連中を想定してVBNCで論文検索してみたら簡単にHitした

ストレス環境下では、多くの細菌種が飢餓状態や生理的には生存可能だが培養不可能な状態(VBNC)に陥る。
このような条件下では、いくつかのヒトの病原性細菌がVBNC状態になることが報告されている。VBNC状態の病原性細菌は、通常の培地では増殖できないが、生存能力を維持し、病原性を発現し続ける。
VBNCの概念については過去にも議論があったが、いくつかの分子レベルの研究により、in vitroの条件下でVBNC状態が誘導されるだけでなく、適切な条件下でこの状態からの蘇生が可能であることが示された。

VBNC状態は細菌の生存戦略であり,環境モニタリング,食品技術,感染症管理などの分野で重要な意味を持つ。したがって,VBNC状態にある細菌性病原体と水・食品媒介感染症の発生との関連を調べることは重要である。

本総説では、VBNC状態における細菌のプロテオミクスや遺伝子プロファイル、蘇生条件、検出方法、抗生物質耐性、Rpfの観察など、様々な観点からVBNC細菌について解説する。

細菌を病原体の先入観でレビューすることはさておき、in vitroでVBNCを誘導できるようになっていることは面白い


ブログの続きを引用させていただく

VBNCの知見はさまざまな細菌による感染症に対する見方を変えてくれる。

 例えば,コレラ菌は流行期には水の中から検出できるが,非流行期には全く検出されない。後者はVBNC状態である。ところが,この状態でもコレラ菌は毒性を失っていないのだが,なんと,人体の腸管を経由することで,培養可能な状態となり,感染力を有して復活するのだ。
同様の「人体を経由するとVBNCから培養可能型に回復する」現象は,病原性大腸菌でも検証されている。

 恐らく,この「VBNCから培養可能型へ」の変化はどんな生物の腸管でもいいわけではないだろう。恐らく,ある細菌にはある特定の動物の腸管,という対応になっているはずだ。となると,コレラ菌をその地域から一掃するのは,きわめて難しいということになりそうだ。

要するに,コレラ菌と人間は同じ生態系で生きていて,万年飢餓状態に置かれているコレラ菌が増殖するためには,ある種の動物の腸管にもぐりこむことが必要であり,たまたまその動物として人間を利用しているだけだからだ。

 また,大腸菌を海水中で培養すると急速に培養できなくなる。
従来はこのデータから,未処理の下水を海洋に投棄しても安全,とされてきたが,実はこれも,単なるVBNCであり,大腸菌は検出できない状態で生き延びていたのである。

大腸菌交じりの糞便を海水に投棄すると大腸菌が死滅しているわけではないし,大腸菌が検出されないからといってきれいな海水だというわけでもないのだ。
このあたり,かなり怖くないだろうか。

要するにコレラ菌の繁殖条件は人体の腸管がベストだということなのだろう

これを細菌病原論で解釈すると、コレラ菌は人間の腸管だけをピンポイントで襲撃する特殊な存在になってしまうが、環境に目を向けよう

その人間の腸管は果たして健康体であったのか?
エンデルラインの記事の通り、病原体の役割は体内環境に依存しており、ベシャンの研究を合わせると全ての細菌はMicrozymasに収斂することから、その人物の腸管がコレラ菌にとって都合が良かった以上の意味を持たず、毒性があるか否かは別問題だ


 このような知識に出会うと,医学界での抗生剤や消毒薬に関する従来の知見は,全て見直す必要があるのではないかと思われる。

従来,抗生剤の効果は浮遊菌を対象にさまざまな濃度の抗生剤を作用させ,その半分が死に絶える濃度で求められてきた。

しかし,上述のように浮遊状態は細菌の特殊な状況であり,自然状態ではVBNCが基本である。

要するに,浮遊細菌という,「最も活性が高く,最も抗生剤が効きやすい」状態で実験されてきた物である。
ここからして既に,不合理なのである。

抗生剤が有効なのは炎症を起こしている元気な細菌だけであって,VBNCにある大多数の同じ細菌には効いていない。これを繰り返していけば,やがて抗生剤は効かなくなるはずだ。

ベシャン博士の研究中にもある通り、防腐剤は侵入を食い止めはするが、既に侵入してしまっている細菌の繁殖は防がない

今回の記事で、「抗生剤が効くのは浮遊状態という特殊で元気な細菌だけ
※しかもその体内環境は無視された状況で

更に

これは消毒薬も同じだ。

消毒薬の効果を調べるためには,試験管や寒天培地に細菌をばらまき,それに消毒薬を作用させ,それを新たに培養してコロニーを作った数で調べている。

しかし,本書でも繰り返し述べられているように,VBNCの細菌は全て死滅しているわけでもないし,復活できる菌が含まれている

まして,殺菌効果を生理食塩水に浮遊させた細菌で調べた場合,消毒薬は失活しにくいことは明白だ(生理食塩水では消毒薬は失活しない)。

一方,線維芽細胞などの人体細胞に対する毒性(作用)を調べる際には,血液培地などで細胞を培養し,その上で消毒薬を作用させるが,この実験系は最初から,消毒薬が失活しやすい条件で行われているのである(培地そのものが消毒薬を失活する効果を持つ)。

消毒薬にも実験系のバイアスがあるということになる


現在定期的なアルコール消毒の習慣があるものの、手についた細菌たちは果たしてどういう状態で存在しているのだろうか?
VBNCの状態で存在しているならば、ただ手を荒れさせているだけの、病原体相手には全く無意味な代物になってしまうね

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