野良犬 演出の話

黒澤明の野良犬を見てきました。

画質がいいわけでも、音質がいいわけでも、

取り扱っている題材が特別なわけでもないのに、

なぜかものすごく引き込まれました。

ということで今回は脚本・演出を中心に見ていきます。


作品全体において、

対比がさまざまなところに使われていました。


まず、主人公の村上が一人で人を探している時のこと。

彼の真剣な眼差しと民衆の日常的な生活が対比されていました。

彼の眼がアップで映され、民衆の生活がそれに透過するように映されていました。

この対比によって村上の真剣さを表しているようでした。

※モブとの対比


続いて、村上がピストルの弾を見つけ、

それを研究員の方に見てもらっている時。

調べられているのは事件に使われたピストルの弾ですが、

もしかしたら自分の無くしたピストルかもしれない。

そんなことを思い、研究員の方が顕微鏡を覗いているところを見ています。

この時、

適当な雰囲気の研究員と、真剣な村上がまず対比されています。

そして、真剣な村上の顔、顕微鏡を覗く研究員、研究員の一人称視点から見える顕微鏡先のピストルの弾が、それぞれ順番に映されています。

村上と研究員はほとんど動いていないのに、

ピストルの弾だけ動いているところが印象的に見えました。

※動きの対比


さらに、ベテランの佐藤との会話の中で、

佐藤は、ありきたりの事件だというのに対し、

村上は真剣に話をしているところが良かったです。

※感情の対比


その後も佐藤と村上の間には感情的な対比が見られます。

そしてそれがセリフにも出ていますね。


しばらくして、村上と佐藤が女性を泣かせてしまいます。

そして、周りの女性は急いで歩いているような描写がされ、

周りとの対比によって女性が悲しんでいることを強調しているようでした。

※モブとの対比


また、警察二人が落ち着いて話しているだけのシーンであっても、

背景では風が吹いていたり人が動いていたりして、

飽きさせない工夫をしているところがありました。

※背景との対比


この辺りからはおそらくテーマに関わる対比がされてきます。

村上は犯人の気持ちがわかってしまうといい、

佐藤はそんなこといちいち考えていたら警察なんてできないと言います。

村上は環境が悪くなければ犯人はこんなことをしなかったといい、

佐藤は同じ環境だったとしてもそうならなかった人もいると言います。

その結果、村上は変わっていったのだろうと思います。


犯人に愛されていた女性との会話の際、村上は言いました。

確かに世の中が悪い。しかし何もかも世の中のせいにして悪いことをする奴はもっと悪い。

というように。

それに対して、女性は、

悪いことをしている人の方が幸せだと言います。

そして村上は、

じゃあなぜこの服を着ないんだ

と、彼女が男からもらったドレスを指しながら伝える

という白熱したシーンがありました。

村上自身、かつて犯人と同じ状況になっても犯罪を犯さなかったことから、

環境が悪かろうが犯罪を犯さずにいられることを言いたかったのだと思います。

(ここがテーマだろうか)


白熱したシーンから一変し、

佐藤がいる落ち着いたシーンに変わります。

そして、佐藤の落ち着いたシーンで雷がなって一瞬不穏な空気を見せてから、

村上側の、女性が狂ったようにドレスを着て踊り叫んでいるシーンに戻ります。

このシーンの切り替えと盛り上げ方は本当にうまいですね…。

※シーンの対比


佐藤のシーンの話になりますが、

この辺りからサスペンス要素が入ってきます。

佐藤は雷の音が激しい中電話をしているので、

よく聞こえずにそちらに集中しています。

ホテルの中におり、

佐藤の電話をしている場所と、階段が同時に見える画角のシーンになります。

そして、階段の上から誰か(犯人)の足だけが見えている…

さらに、ホテルの主がそれに気づかずに警察がきたという話をしており、

それを聞いた階段の上の足は階段の上に戻っていく

というシーンがあります。

犯人は拳銃を持っています。

拳銃にはまだ弾が残っています。

佐藤がいつ殺されるのかヒヤヒヤしながら見せられました。

(余談ですが、犯人の持っている拳銃の弾の数に制限があったからこそ余計にヒヤヒヤしたように思います。)

佐藤自身がそれに気づかずにいるからこそ、

余計に観客からはヒヤヒヤしたと感じます。

※恐怖の対比


そして、村上側からは佐藤と電話がつながりますが、

何かが起こったような雰囲気のあと、

ピストルがなって電話が繋がらなくなる

そして村上が焦って何度も電話に呼びかけるシーンは、

村上の佐藤への気持ちが伝わってくるようでした。


最後のシーンで、村上は犯人を追い詰めます。

近くの民家からピアノが流れてきて、

平和な雰囲気の中で村上は銃で打たれます。

その瞬間ピアノは止みますが、

しばらくしてまたピアノが再開します。

この平和的な雰囲気の中で戦いが繰り広げられているのがまたいいですね。

※BGMとの対比


そして最後、ようやく犯人を捕まえました。

近くからは子供の歌声が聞こえてきて、

犯人は空を見ながら号泣していました。

美しいものを見て自分のやったことを突きつけられたのでしょうか。

※背景と感情の対比


今回、対比について分けて考えてみました。

対比と一言で言っても色々な使われ方がしていて面白かったです。

本当にいい映画だったのでしばらく黒澤明作品を漁ってみようと思います。

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