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時の流るるはあなたと共に

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今まで静かに穏やかに暮らしていた幼馴染みの2人。これから先もこの穏やかに生活は続いていくと思っていた。ある日、2人の街に隣国が侵略してくるという話が持ち上がってきた。急に押し寄せ…
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時の流るるはあなたと共に≪完≫

時の流るるはあなたと共に≪完≫

季節は流れ春に入ったばかりのある日、彗蓮さんから1通の手紙が届いた。
内容は今度彗蓮さんが結婚をすることになったらしく、さらにこの秋には新しい命が産まれるという幸せな報告だった。私はとても嬉しくて彗蓮さんにすぐ返事の手紙を書いた。
やっと自分の人生を歩き幸せに向かう彼を思うと本当に良かったなぁと胸をなでおろしていた。そして私は久しぶりに彗蓮さんに会いに行くことにした。私の作った茶碗を持って。

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時の流るるはあなたと共に≪④≫

時の流るるはあなたと共に≪④≫

それに畝宗もその覚悟はして行きました。あなたにも私が畝宗の帰りを待つようにあなたの帰りを待つ人はいたはずです。だからあなたは生かされたことを胸張っていてください。そして本当責められるべき場所はあなたなんかじゃない。もっと違うところにあると思います。もしも、ここに彼がいたのならきっと同じような事をあなたに言ったと思います。』と私は彗蓮さんをまっすぐ見ながら応えた。黙って私の話しを聞き終えると彼はその

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時の流るるはあなたと共に≪③≫

時の流るるはあなたと共に≪③≫

何か話そうとするが、驚きと嬉しさで口からは言葉が出ずに目から涙が溢れ出ていた。
『泣くなよ。泣いてちゃ答え分かんないだろう?』と顔を覗き込む畝宗の顔を見てさらに涙は止まらなく
『はい。畝宗の奥さんにしてください。』と言おうとするのに上手く話せないでいると
『爾杏?返事はさ、帰ってきてから聞いてもいいかな?俺必ず生きて帰ってくるからそれまで返事は取っておきたい。』
と話し終えると私を力強く抱き寄せ畝

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時の流るるはあなたと共に≪②≫

時の流るるはあなたと共に≪②≫

そんな平和な毎日を送る私たちの町に隣国が領土拡大の為、侵略してくるのではないか?と言う変な噂話が流れた。町中少しざわついたが、どうせただの噂話だろうとすぐ収まってしまった。例え戦争が起きたとしてもこんな小さな町に迄、戦火の影響などあるはずがないと他人事の様に聞いていた。そんな噂話の事などすっかり忘れたある日の夜、畝宗が『今日、12年に1度の流星群が空に現れるから行ってみないか?』と私を誘ってきた。

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時の流るるはあなたと共に≪①≫

時の流るるはあなたと共に≪①≫

いくつもの季節が私達の間を通り抜けたのだろう?

『畝宗(せしゅう)…今年で何回目の桜になるかしら?』
『この桜だけは本当にあの日と変わらず綺麗に咲いているね。』
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。

50年前…

小さな田舎町で私と幼馴染みの畝宗(せしゅう)は暮らしていた。家が隣同士で年も近かったため私達は兄妹の様に育ちい

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