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ここでは愛情と友情は有料です(キャバクラ文学)

 私にはたくさん彼氏がいる。 キヨさんと、やっちゃんと、ミッチーと…… 仕事の前に一緒に食事をすることはあるけど、みんなお店の中で会っている。 キヨさんはまだ付き合って数日。やっちゃんは私が客と寝ないことを知っていて、それを何とか落とそうとしている。我ながらあと一押しで落ちるかもしれない感はうまく出せている。

 ミッチーはガチ恋客で、私を「人生で初めて好きになった人だ」という。 こういうヘビー級の色恋は疲れるし、いいとこ2ヶ月だし、 本当は先輩のマリナさんみたいに、客にオラついてボトルを下ろさせるような接客ができたらいいなと思う。マリナさん曰く、「要所で弱いとこみせなきゃいけない」って結構大変みたいだけど、色恋より全然マシだと思う。でも私はそういうキャラではなくて、 押しに弱そう、顔はハデだけど実は真面目そう、そんな風に見られている。おかげで色恋客ばっかりだ。

 この前、高校からの親友のカレンが失恋した時、私は食事に連れ出して彼女の話をじっくりきいた。はじめは泣きながら話してたけど、日付が変わるころには笑ってた。カレンは私に悲しいことがあった時、なぐさめてくれるし、うれしいことがあったら一緒に喜んでくれるから、お互い様だ。こういう、小さな信頼の支払いと受け取りを重ねて人間関係は育っていく。

 だけどキャバクラは人間関係を買える店だ。信頼の支払いをお金にかえて、友達や恋人とのめんどくさい関係構築のプロセスを全部すっ飛ばして、人間関係のいいところだけ、上澄みの部分だけを味わえる。だから私は会社や家庭では誰も聞いてくれないような客の自慢話を真剣に聞き、すこし笑える話は大笑いして、初対面なのに「おっぱい大きいね」なんて無礼なこと言うやつにも、「天然ものだから貴重ですよ」なんて冗談で返す。お前、それリアルの人間関係なら一発で破綻するくらいの発言だからな。
 恋人や友達とするようなくだらない話や、ときには愛をささやくLINEもする。全部仕事のうちだ。

 お店では気遣いも、共感もしてくれなくていい。お金がたくさん必要だけど、逆にいえば、お金だけあれば恋人や友達になれるんだ。

 私は20歳そこそこの頃にホストに通ってたことがあるから、客の気持ちはほんの少しだけわかる。「今月ヤバい(´;ω;`)」という担当の連絡一つで店に行っちゃう私は細くてチョロい客だった。担当が優しくしてくれると、その分をちょっとでも返さないと思ってボトルを入れた。支払いは大変だったけど、担当の売り上げに貢献できたかなと思うと嬉しかったし、大好きな担当のために仕事を頑張ってた私は充実していた。

 お金で買える愛は、お金が尽きない限り、なくならない。だからお金で疑似恋愛するのは、めちゃくちゃ楽しい。

 おととい、いつも支払いを現金でしていたマサくんがクレカで払ってて、珍しいなと思ったら、次は店じゃなくて外で会いたいとしつこく言ってきた。十分教育してきたつもりなのに、どこで勘違いしちゃうんだろう。ホスクラにいく女は、自分にお金がなくなると相手にされなくなるってだいたい分かってるのに、男はそうは思わないみたい。

 学校で「ホストやキャバクラはお金を払って疑似恋愛をするところです」なんて教えてもらえないし、家庭でも教えてもらえない。今の時代、教えてもらえないなら知らなくてもしょうがないか。たしかに、客と寝たり、客と付き合うキャストもたまにいるからファンタジーとも言い切れないし。

 充電していたスマホのLINEの受信音が鳴って、画面をみる。昨日初めて席についた客からだった。LINEの名前は石川って書いてあるけど微妙に誰だかわからない。

「来週末、ご飯いけない?」

 たしか若い客だったから、一応予防線をはって返信をする。
「同伴!嬉しいです(笑顔)」

 すこし間があって、またLINE。
「ごめん、店にはいかないよ~(泣き笑い) 仕事前にご飯だけどう?」

 やっぱりな。泣きながら笑ってる絵文字もムカつく。なに笑ってんだ。でも私は優しいから「えー、残念!(涙) でも、石川さんいい人っぽいから行きたいです(笑顔)」と返信する。約束の日が近くなったら、「その日、他の同伴に誘われてしまって、同伴にしてくれるならむこうを断るんだけど」と揺さぶりをかけてみよう。

 駆け引きばかりで、もはや疲れもしない。だけどイベントや、売り上げが少し足りないときは、お客さんにお願いもしなければならなくて、お願いをすると見返りを求められるのがしんどい。お礼のアフターなら私から誘うけど、休日遊ぼう、旅行に行こう、ホテルいこうとか、こういう誘いをかわしつつ、関係性を維持して、次のお願いをするのがキャストの技量だ。キャバ嬢は接客業じゃない、営業職だ。
 営業したくないキャバ嬢は時給2000円のガールズバーか、ノルマのない中野のキャバクラに行け。

 むかしからメンタル強いって言われるし、日々の駆け引きで鍛えられているけど、最近は将来を考えると不安におしつぶされそうになる。高校のときの友達はちゃんと大学でて働いて、結婚した人もいて、インスタがまぶしい。でも今さら昼職に転職して月20万円で生活なんかできないし、割り勘の居酒屋の飲み会で愛想を振りまくのも絶対に嫌だ。そんな私をカレンは「水にどっぷり浸かって、価値観と金銭感覚がぶっ壊れた」って言うけど、私自身が商品の仕事で稼げるって結構すごいと思うんだよね。ドン・キホーテの酒コーナーで5000円で売られているシャンパンを店で頼むと3万円かかって、ドンキ価格3万円なら店では10万。この差額が私の付加価値だ。体を使わずに、7万円の差額を払ってもらうには頭と気を使わないといけない。
 お客さんでいてくれる限り、気なんていくらでも使うし、場もいくらでも盛り上げる。

 さー、今日も折れない心と五苓散(ごれいさん)をもって歌舞伎に出勤する。ひさびさにモンエナ飲もうかな。

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