蟻んこ|詩
天気のよい日に芋畑に行って
子供達みんなで土をほじくり返していると
ババババババババ、と
アメリカの戦闘機が機関銃を打ってきた
手にした芋を放り投げ
畑をごちゃごちゃに蹴散らして
悲鳴を上げて逃げ惑う
操縦席から見たら
蟻の巣をつついたような光景だろうか
岩陰に隠れる蟻んこ
林に逃げ込む蟻んこ
雷のような機銃掃射
高鳴るプロペラエンジン
日本の戦争の終わり頃
疎開先の子供達も戦争の中にいた
福島の阿武隈の近くだったという
縁側に茶色いペンキを塗りながら
蟻んこの一人だった父は
昨日の出来事みたいに普通に話す
戦争があったことを普通に話す
ぽかぽか陽気の春の一日
その日もいい天気だったに違いない
違うことといったら
誰も彼も腹の中は空っぽで
雲の切れ間を行く飛行機は
鉛の弾を打ってくるということ
ごちゃごちゃに逃げ惑った蟻んこたちは
今では綺麗さっぱり骨壺に収まったか
父と同じように普通に人間の墓に入れたか
2024/1/17
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