見出し画像

隣の芝生が目に沁みる <大黒柱の結婚・8>

婚姻届の提出を無事に終えホッと一息ついたのも束の間、またもや撃沈を味わった。

別に誰かにくわらされたわけでもない、私はいつも自分で苦しみをつくって自分で苦い思いを味わうことになる。

ジェットコースターとは上がってから下がる一往復のみで終わるものではない。

入籍日となった閏年のある日の翌日、
ユーチューバーが婚約発表し、ネット上では若い子を中心に大盛り上がりだった。

10歳近く下の子の話題だ。
30代に入った私が何をひっかかっているのだ。
私の嫌いな「ご報告」の文字。

記念にアップされた動画では、準備の段階ですら緊張してわずかに涙しながら想いの丈をこっそりと視聴者に向けて話す優しい彼氏。
いつも通り笑顔で頭からつま先まで全てが完璧な何も知らない彼女。

高層階から夜景が見渡せる何万もしそうな客室。
両手で抱えきれないほどのバラの花束。
テレビで何度も見たことがあるようなと片膝をついたポーズに、
テレビで何度も見たことがあるような幸せの泣き顔。
これでもかというほど輝く左薬指。
何度だって抱き合うふたり。

ネガティブに震えた。

プロポーズもしてもらえない、指輪ももらえない私はかわいそうな女か?負け組か?

私もこのくらい細かったら、このくらい目が大きかったら、いつもこのくらい可愛く笑えてたらプロポーズされてたかな??

いやいや、こんな子どもみたいなこと言うのはやめよう。

負け組だなんて言ってくるやつにし負けても悔しくないし勝っても嬉しくないけどさぁ。そもそも組ってなんだよ??世間によって世間とまとめてくくられるのなんて嫌だ。
テレビで何度も見たことあるやつだよ。

確かにテンプレかもしれない、茶番かもしれない、
でも、絶対的な幸せが画面の中に溢れ返って、オフラインのこちらにまで漏れ出していた。

私も待っていれば、言ってくれたのだろうか。
でも、彼は形式的なことで誰かのために自分の気力を犠牲にして頑張ったりしない気もする。

それに、私もキラキラしたものは興味ないって話してたし。
いや、興味ないのは本当なんだけど本心であり本心でないみたいな…。

「いつ結婚してくれるのー?って結構言ってたんですよね。」
「そう、だからいつプロポーズしようかなってずっと考えてたんですよ。で、お仕事的にもタイミングが良かったのが今かなって。」

へぇ、、そんな言い方もあるのか、可愛いな。
待ってるだけじゃだめなんだよな、かと言ってお高くとまったりするのも私はできないし。

変に計算するよりも素直がいちばんよなぁ。

でも、素直になるのも自信がいるものじゃないか?

遠回しに催促して焦ってくれなかったりしたときのダメージがこわいし、
めんどくせーなと内心思われるのも嫌だし。

でも、勘繰らずに相手を信じて自分をさらけ出すことが勇気なんだろうなぁ。
素直がいちばん可愛げあるけど勇気がいるよなぁ。
こんなに若い子に教えられるなんて情けないや。

でもさでもさ、パチンコなんて自分の未来を大事に思ってたらやらないよね?
それはおのずと、自分と一緒にいる人のこともどうでもいいってこと?
つまり私との未来のために何か頑張りたいとかって思わないってこと??
そうだとしても、彼はいつも優しい。

結婚という(世間的には)責任の重いイベントを背負おうしてくれない悲しさと同時に、
刹那的に飄々と生きている人に私は惹かれるんだったと思い出す。

なんてね、頭の中でどんだけぐるぐる考えたって世界は変わらずいつも通り過ぎていくだけなんだよね、考えるだけ無駄無駄。
所詮は画面の向こうのこと、10個ほども下の世代の子に何影響されてんだよ私。

関係ないよ。私は私。
自分だけの人生を生きてこう。
人生の主役は私!
私の人生最高!
どんだけ輝いて見えたってどいつもこいつもモブに過ぎない!

お得意の情緒不安定を経て、なんだか身体を動かしたくなった。
久しぶりに近所のヨガスタジオへ向かう。

「今日でスタジオが10周年なんです!
10年前の今日、スタジオが完成したときに旦那にプロポーズされたんですよね、ふふ。」

頂点はお預けされ、ジェットコースターは減速して今にも後ろへと落ちていきそうだ。
トロッコにでも乗り変えて、薄暗い道だろうと前向きにもったりと進んでいく。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?