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てるてる坊主の仕事 <大黒柱女の結婚・7>

意味のないことにこそ意義がある。

「坊主にしよっかな〜」とは少しから聞いていたけれど、まだ寒すぎるという理由で延びていた。

すべり込み入籍の失敗から年が明け、リベンジの日を2月29日とした。

閏年だしおもしろいよねという理由で、友引とか仏滅は知らないまま入籍することに決めた。
2月29日が未だにどれに当たる日なのかは知らない。

「もうそろそろ髪切らなきゃなぁ〜」と言ってるときくらいの髪の長さが私好みなのだ。
切らないでくれと言い続け延び延びのボサボサになったこの頭とも今日でお別れ。

今日の予定はこうだ。
彼は先に家を出て、駅前の理容室へ行く。
終わった頃に駅前で待ち合わせてそのまま電車に乗って市役所へ向かって婚姻届を提出する。

今回は戸籍謄本の用意はばっちり。

じゃあね〜と言い玄関でぼさぼさ頭のわしゃわしゃ納めをした。

出かける準備をしながら連絡を待っていると、え、もう?という早さで「もう終わったよ〜」と。

駅に向かうと、見事な坊主頭で傘をさして突っ立っている男がいて、私は顔を見ることができなかった。
笑いが止まらなくて呼吸が難しい。
腹筋の痛みを感じながら電車に乗る。

「なんか悪いことした人みたいだね」

「その罰の結婚、みたいになってるやん!」

何も悪いことしたわけでも暑いからでもなく好みだからでもなんでもない。
坊主頭にした意味はなにもない。

理由はある、ただおもしろいというだけの理由。

目が慣れずなかなか真顔になれないまま市役所に到着した。
記念写真のソロ写真は、坊主頭が婚姻届を両手で顔の近くに持つわけだけれど、
どうみても逮捕後に撮影されるマグショットさながらだった。

窓口の受付の人は前回の人じゃなくてなんだかホッとした。
あちらも別に覚えていないだろうけれど。
いや、しんちゃんの婚姻届だから思い出されてたりして、なんて思っていたのだけれど、その心配はなかった。

でも、ジョリジョリの丸坊主がしんちゃんの婚姻届を提出するのだ、
ここは市役所なのでケラケラ笑うことは控えた分また腹筋が痛む。

「苗字どっちにする?」
「うーん、、画数画数同じくらいだしなぁ。
でもそっちの苗字の方がかっこいいよねぇ。
でもいろいろ変更手続きするの面倒なぁ…」

数十秒の会議の末、私が苗字を変えることとなった。
日本はいつになったら時代に追いつくのだろう。

ドヤ顔ならぬドヤ心で戸籍謄本までしっかりと揃え書類の提出が終わった。

窓口の前の長椅子でぼーっとテレビを見上げながら待つことになった。

\大谷翔平日本人女性と結婚発表/

「まじ!ww」

「えぇーw なんかやったーw」

なんだか奇遇ですな。
彼は今日入籍なわけじゃないけどさ。
とりあえず全国の女子アナたちはどんまい。

メディアや世間はものすごい盛り上がりを見せている。
結婚ってそんなすごいとこなのか?

書類を提出する前とした後とでは苗字も変わるし、社会的な立ち位置も変わる。
打って変わって、私の日常生活やテンションはそれに追いついていない。
いつもどおりの日々がいつもどおりの過ぎるだけだ。

お役所で行われる書類の機械的な工程や、カップルが顔合わせやら挙式やらに勤しむ姿はが私にはなんだかおままごとのように見える。
いや、もっと本心を言うと茶番だ。

私は自らお花畑の花を刈り取ってサバンナか校庭のグラウンドに仕立て上げてしまうんだよな。

そして今日も雨だ。
自ら晴れ舞台を綿密に準備してたくせに慎ましやかに主人公になろうとするのってなんかゾワってしちゃうんだ、さらにそれが一般的なんだと。

だから、今日晴れる必要は私にはなかった、雨の方がしっくりくる。

ちょうどここに坊主もいることだしなんだかてるてる坊主みたいで可愛いじゃないか。

あれっ。てるてる坊主って天気を良くするのが仕事じゃないのか。
ぜんぜんなっとらんじゃないか。
まぁいいか、私は紫外線嫌いだし。
曇りや雨が私の晴れなのかもしれない。

そうしてやっと入籍が済んだ。
これで結婚イベント終わり。
指輪もないしドレスも着ないし式も挙げない。

みんな何かをてんこ盛りにプラスしないといけないほど日常が退屈なのだろうか。


続く↓


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