『鬼滅の刃』柱稽古編 第三話「炭治郎全快!! 柱稽古大参加」
サブタイトルが原作で炭治郎が柱稽古に参加した時のナレーションから取られているのにちょっと驚いていたら、それどころではない驚きの内容だった今回。というのも、原作ではわずか五コマだった、宇髄の下での稽古を思い切り膨らまして、一話分としているのですから! アニメオリジナル大歓迎、むしろそれがなければ観る甲斐がないという過激派の私でもびっくりのアレンジであります。
それでは具体的にどこが膨らまされたかといえば、名前も出てこない平隊士、いわばモブ隊士たちのドラマであります。もちろん炭治郎と宇髄、その三人の奥さんとのやり取り全般も細かく描かれてはいますが、完全にオリジナル要素として平隊士たち視点の物語が描かれるのです。
超人というべき柱はもちろん、その域に手が届きかけている炭治郎たちにも、遠く及ばない実力の平隊士たち。当然というべきか、最初の試練である宇髄の基礎体力向上訓練の時点で、もう気息奄々の状態です。弱音も出れば愚痴も出る、普段生真面目一本槍の炭治郎を見ていると、その違いに驚かされますが(いや、彼のすぐ近くに弱音と愚痴の塊みたいな奴もいますけどね)、しかし考えてみれば、そんな常人に近い人々も存在してむしろ当然でしょう。
辛い訓練に苦しみ、訓練を休めるとなれば喜び、仲の良い隊士とは冗談を言い合う――彼らとて鬼との戦いにそれなりの覚悟を持って臨んでいるはずですが、ごく普通の若者らしい顔が覗くのには、どこか安心させられます。(ちなみにそんな隊士たちが夜間パトロールに赴く姿は、微妙にハラハラさせられつつも微笑ましく感じられるのですが、実はこの先の展開の伏線ともなっているのが心憎い)
そしてある晩、宇髄が炭治郎と平隊士たちに課した特別訓練――それは夜の森の中で、どこかから襲いかかる宇髄と戦うというもの。しかも、炭治郎は他の隊士を守りながら戦うのであります。如何に片目片腕を失って現役引退したとはいえ、宇髄はそもそも元忍び。夜の闇の中で忍びを相手にするというのは、ある意味鬼よりも厳しいといえるでしょう。
案の定というべきか、平隊士たちはなす術もなく宇髄の奇襲に次々と打ち倒されていきます。炭治郎はそんな彼らをよくまとめつつ、宇髄と互角に打ち合うのですが――その二人の戦いが、隊士たちの心に小さな火を灯します。
自分たちの実力では今の宇髄にも到底歯が立たない。それでも、これほど強い柱や炭治郎たちであれば、上弦の鬼や無惨に勝てるかもしれない。だからこそ自分たちもいつかは少しでもその支えになれるよう、強くなると……
どうしても炭治郎や柱たちの活躍に目がいってしまいますが、そんな彼らも自分たちだけで戦っているのではなく、支える人々の存在あってのことだと、これまで(例えば直前の刀鍛冶の里編で)幾度も描かれてきました。今回のエピソードは、それを支える者の立場から描きなおしたものであり、そして同時に彼らのこの先の可能性に、希望を持たせるものとして、爽やかな後味を残します。
柱稽古は強い者をより強くするだけでなく、鬼殺隊の力そのものを底上げするものである――今回のエピソードは、炭治郎の稽古の始まりに、その意味付けを再確認したものであるといえるでしょうか。
――が、原作を最後まで読んだ方であれば、全く別の印象を持つのもまた事実。今回のエピソードがこの先どのシーンに繋がるのか、嫌というほどよくわかってしまうのです。
(今回炭治郎に肩を借りていた平隊士は、おそらく件のシーンで叫んでいた隊士なのでしょう)
そんなわけで、人によってはなんとも複雑な心境になってしまうエピソードでもあります。
なお今回、その他のオリジナルシーンとして、稽古の合間に風柱と蛇柱が密かに顔を合わせる場面が描かれます。君たち、本当に仲がいいんだな――とある意味感心しますが、ここで二人が話し合うのは、第一話冒頭で二人が遭遇した無限城(といっても彼らはその存在をまだ知らないわけですが)のこと。なるほど、あれほどの怪事に遭遇していれば、確かに気になることでしょう。
(しかし何となくこの二人、他にはこの話を伝えていないような気がしないでもない……)
もう一つ、前回炭治郎が義勇に挑んだ蕎麦早食い勝負の顛末も語られるのですが――俺はその資格がないとか言いつつ、こうして後輩の気持ちを慮って、きちんと対応できる器の大きさを見せるのですから、なおさらタチが悪いのだなぁ、この人は……
(そして胃袋の容量もデカい)
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