【実写ADVゲームの系譜】かまいたちの夜から428まで(前編)
日本における実写ADVの歴史の話。
みなさんは実写ADVというゲームのジャンルを知っているでしょうか。
おそらく、たとえゲーム好きであっても多くの人がこのジャンルを知らない。ましてプレイしたことのある人はもっと少ないでしょう。
実写ADVは数年前まで”かつて存在した”ジャンルという認識のものでしたが、近年になってすこしずつゲームとは違う側(=映画の側)から、新たな勢いを取り戻しつつある(私感)ジャンルです。本記事ではその歴史と魅力を、読んでる人の興味が尽きない限り書いています。どうぞお付き合いください。
なおこの記事は実写ADVについて、「前編・ゲームサイド」と「後編・インタラクティブシネマサイド」に分けています。ゲームに興味がなく、インタラクティブシネマという語 目当てで来た人は、以下のリンクに飛んで下さい。
タイトルにある通り、この記事では「かまいたちの夜」から「428」までを扱います。「かまいたちの夜」以前にも、ゲームに実写を取り込んだ作品は存在するのですが、どうしてもSFC以前はプレイしたことのないゲームが多く、本記事では網羅しきれていません。記事の最後に、実写ゲーム全般への考察が深いサイトURLを載せているので、もっと多くのゲームを知りたい方は合わせてそちらもご参照下さい。
SFC「かまいたちの夜」「学校であった怖い話」
まずADVゲームの話をする上で、この「かまいたちの夜」から語り始めるのはとても切りがいいと言えます。最初に取り上げる「かまいたちの夜」は、1994年にチュンソフトからスーパーファミリーコンピューター(SFC)用に発売されたゲーム、「弟切草」に続くサウンドノベルシリーズの2作目。ADVゲームの歴史に大きく名を残す、名作です。
このカットは「かまいたちの夜」を代表するシーン。実写をドットに置き換えた背景と青のシルエットで表されたゲーム画面が印象的。上の画像から見て分かる通り、このゲームの背景は実写取り込みによって作られている。「かまいたちの夜」の画面は全編こんな調子で、実写を要素でなくメインとして使ったものと言えば、おそらく日本初のゲームだと言える。
もちろん中身は最高に面白いサスペンス(諸説)で、その後ADVゲームの標準となるフラグや分岐、マルチエンディングといったシステムを発明した作品として、現在でも高い評価を得ているADVゲーム。もしプレイ可能な媒体があったら、今からでもぜひやってほしいところ。
そして同時期にSFCで発売されたソフトとして「学校であった怖い話」。これは「かまいたちの夜」から1年後の1995年発売。複数人の学生が、学校であった怖い話として、代わる代わる怪談を話し、プレイヤーはその聞き手として彼らの話を聞いていく、というもの。返事をしたり(例えば、どうなったと思います?への答え)、話す人の順番を選択することでシナリオがいくつにも分岐する。
私は上の2作はどちらもWiiのバーチャルコンソールで遊んだが、この「学校であった怖い話」は分岐がわかりやすそうに見えて、実はかぶる部分が多く、同じ話を何度も聞かされてリタイアした記憶がある。当時のゲームにクイックセーブ・クイックロードなる概念はない。
ともかく実写ADVの黎明期としてあげられるSFCの代表作としてはこの2つが最も有名かと思われる。次点として、「晦-つきこもり」「夜光虫」あたりでしょうか。しかしここまでの世代の作品は、いずれも実写を用いながら、実写を切り抜いて、ゲームに取り込む形で画面を構成したもの。実写は一つの要素であって、実写の画そのものがゲームなのではない。実写の画を中心に据えてゲームが進行するのは、大容量のCDROMの使用が可能になった、次世代機セガサターンとプレイステーションを待つことになる。
SS「街 ~運命の交差点~」、Wii「428 ~封鎖された渋谷で~」
セガサターン(SS)やプレイステーション(PS)といった技術の進歩によって、実写を生かしたゲームはさらに利を得る。高画質な写真や動画をいくつも盛り込むことが可能になった。その中で、本格的に写真を使ったゲームとして最も有名な(マイナーな中で)ものがセガサターン「街 ~運命の交差点~」とWii「428 ~封鎖された渋谷で~」。どちらも「かまいたちの夜」を制作したチュンソフトのサウンドノベルシリーズからの発売。
セガサターンで発売された「街 ~運命の交差点~」(1998年発売)は、ザッピングシステムという特異なシステムをもつADV。複数視点を切り替えることによって、幾層にも分岐し、あらゆる人物の運命をパズルのように組み合わせることで物語は進行する。私たちは、彼らの多種多様で雑多な日常を追いながら、街をめぐる不可思議な交差に立ち会うことになる。いまプレイするとかなり古めかしく感じるが、1998年、このゲーム発売当時の渋谷の街の風景が、そのまま映されており、かえって興味深いかもしれない(現在最も入手しやすいのはPSPで出ている完全版)。
実写ADVとして、プレイステーションで例を出すと、「黒ノ十三」(1996年発売)がいい例。これは分岐といった「ゲームであるということ」を楽しむというより、読み物に近い系列のものですね。参考画像を探している時にインパクトがあったので、実写じゃないシーンを採用してしまいましたが、これもPSの実写ADVです。綾辻行人が一部シナリオに寄稿していることで有名。他にADVではエニックスから発売された「ユーラシアエクスプレス殺人事件」(1998年発売)などが同じくプレイステーションから出ている。あとはADVではないが、「鈴木爆発」など。
話を戻します。「街」の事実上の後継作、2009年発売のWii「428 ~封鎖された渋谷で~」も、「街 ~運命の交差点~」と同様に、ザッピングシステムを用いたゲーム。今やるならコチラがおすすめ。下の画像はPS4版より。
このゲームは実写ADVそしてチュンソフトの集大成とも言える作品で、美しいカメラワーク、心躍る劇伴、ザッピングをさらに生かしたゲームシステム。そして最も素晴らしいのは、その複数の運命が一本の線に収斂する見事なシナリオ、ここが「街」と決定的に違う。ネタバレになるので詳しくは言えないが、「街」が雑多な人々のそれぞれの人生を描くとするなら、「428」はその人々がドラマティックに一つの運命に導かれていくもの。
ある事件を発端として、人々の運命の中に少しずつ描かれ、やがて渋谷(428)全体を巻き込む、大きな全貌を現す事件。群像劇的に描かれていく喜怒哀楽と様々なドラマに、それらが立体交差的に交わっていくシナリオに、もう…すべて…、やられてしまう。
小説好きとゲーム好きがなかなかかぶらないのが悲しいところ(普通の人はわざわざゲームで文字を読まない)で、全人類におすすめしたいが今の所、私がオススメした中で実際にプレイしてくれた人はいない。あなたが最初の一人になってくれ。私の人生で一番大好きなゲーム。大好きなので別記事でまた話しますね。
しかし、先に「これが実写ADVそしてチュンソフトの集大成」と述べたとおり、このゲームを最後に実写ADVゲームは見る影をなくし、これ以降チュンソフトはサウンドノベルシリーズでの、新作ADVを出していません。ここを一つの境として、実写ADVはゲーム市場から衰退/消滅し、現在に至ります。
これは実写ADVがそもそもマイナーなものであったこと、ゲーム1本の製作にかかるお金の高騰(冒険作がなくなった)、そして一番はCGが実写に追いついてしまったことが理由としてあげられるでしょう。
前編・ゲームサイド終了、余談
この記事は2つに分けていて、ここまで読んでいただいたのは「前編・ゲームサイド」です。後編は、「後編・インタラクティブシネマサイド」として、インタラクティブシネマという手法の側から、実写ゲームの復権について引き続き話しています。
ここからは余談です。あまり長くなりすぎないようにかいつまんで話していたため、省略したところは多々ありますし、もともとこのジャンルに詳しい人には薄い内容に見えたでしょう。といっても、改めて多くは語りませんが2つだけ。
フリーゲームについて
実写ADVゲームの流行は、サウンドノベル的なものの流行でもあって、そのためこの記事でもチュンソフトの例が多かったかと思います。この流行は、サウンドノベルの作りやすさも大きかったところ。というのも、実写ADVおよびサウンドノベルの名作ゲームはフリーゲームにも多い。
最も有名な「1999ChristmasEve」はダウンロードファイル内のReadme.txtにて、「かまいたちの夜」を意識したものであることが、作者によって語られていますし、「ある日夏の日、山荘にて…」「ひとかた」といった作品も、実際の写真を加工したものを背景として用いたサウンドノベル形式のゲームです。このように写真さえ撮れて、キーボードさえ打てれば作品が作れるといった作りやすさも、こういった形式が一時期作られた理由でしょう。
サウンドノベル以外にも(誰か知っている人がいるのかもわかりませんが)、御茶ノ水研究所製作の「Second Anopheles」(1999年発表)も実写を背景にした推理ADVでした。ハードボイルドな世界観と推理を完全にプレイヤー側の思考力とメモに委ねるのが新鮮で、とても興奮しながらプレイした記憶があります。これは本記事で紹介してる中で唯一、Flashで動いているゲームで、2020年12月以降作動するかわかりません。今のうちに遊んでおいたほうがいいです。
このように商業ゲームの空白期間のように思える間もフリゲという媒体で、愛好家達によってひそかに作られていました。あくまで私感ですが。
2000年代・2010年代の実写ADVゲーム
「街」1998年から「428」2009年に急に時間を飛ばしているので、勘違いされるかもしれませんが、2000年代にも実写ゲームはありました。意外に思うかもしれませんが、2000年代も80年代90年代とは違った意味でADV絶頂期です。なぜならニンテンドーDSの爆発的な普及で。DSは普段ゲームをしない層も取り入れたもので(お料理ナビ的なものを思い出してください)、言葉を選ばず言うと安めに作れそうなゲームがガンガン出ていました。
つまりADVですね。実写作品は目立つものはあまりなく、「相棒DS」や「公証人DS」といったタイアップ、「DS湯けむり殺人事件」など。普段サスペンス番組が好きな層を狙ったのでしょう。成功したのでしょうか…、詳しくは知りませんが。下は「交渉人DS」。
そして2010年代にも実写ゲームはあります。「√LETTER」「CLOSED NIGHTMARE」。それぞれPSVitaとPS4/Switch。これはあえて出さなかった(実写ADVはめっちゃおもろいぞ!という本記事の流れを崩さないために)のですが。
画像は「√LETTER」。まあこの2作は、公式ページを読んだ時点で「いいかな」となったので。やってないものについてあまり語るのは良くないですね。
余談部分を総括していうと、本当にあえて実写でADVをやる意味というのがなくなったのだろうというところです。ゲームの画がどんどんリッチになっていく中、やはりチープな作りに見えるところは否めず、ADVという形式もあってゲームにインパクトはない。さまざまに娯楽があふれる中、「ゆっくり腰を据えないと面白さはわからないよ」なんてゲームには誰もつかないのでしょう。集客力は低い、そして淘汰がなければクオリティも上がらず。そのために記事本編では「428」を実写ADVの区切り(というか事実上の終止符)として扱いました。
大手はまず、企画しないでしょう。ADVとは贅沢なゲームです。ここで大手と言いましたが、後編にあたる「【実写ADVゲームの系譜】やるドラ・ダブルキャストからデスカムトゥルーまで(後編)」では、小規模サークル的な作られ方をするインディーズゲームが、実写ADVに大きな転換点を作ります。ここまで読んでいただいた方、ご足労かと思いますが、コチラもよろしければぜひお読み下さい。
それとこちら、冒頭でちらと紹介した実写ゲーム全般についての記事(外部サイト)です。ADV以外の実写ゲームに興味を持った方はこちらもどうぞ。
最後に言い忘れていましたが、この記事に使われている画像。画質の上下が激しいので感づいたかもしれませんが、インターネットやYoutubeから集めたものです。オリジナルから引用するのが難しいソフトが多く…、その点ご寛恕下さい。
おわり
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