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七十二候 乃東生(なつかれくさしょうず)


#今日はなんの日 🍊
#暦の話

七十二候
「乃東生(なつかれくさしょうず)」

今回の暦ですが
夏至の七十二候
「乃東枯(なつかれくさかれる)」と
丁度対になっています

軽く乃東についてもう一度まとめると
以下の通り

英名All-heal(すべてを癒す)
別名:夏枯草(カゴソウ)=ウツボグサ

シソ科の多年草(冬を越える植物)で
自生地は日当たりのよい山野の草地
ロゼット・プランツの仲間らしく
時期が来ると薔薇の花冠状に葉を形成し
地表に張り付くようにして越冬します

また花は紫色で下から咲くのですが
花穂の上部が咲く頃には下部が枯れて
黒ずんでいくのが特徴
これが大体夏至の頃に起こるので
「夏枯れ」というわけですね

ちなみにウツボというのは
リトルマーメイドでタコの魔女の隣に
二匹いるウナギの仲間のことではなく
武士が矢を入れて持ち運ぶ
「靫(うつぼ)」=矢筒(やづつ)に
花の形が似ていることからきています
※海のウツボもこの矢筒が由来です

本来植物が生い茂っていく時期に
枯模様を見せ、逆に植物が死滅していく乃東
なんとなく天邪鬼みたいな草ですが
どうも生存戦略っぽいんですよね

通常とは異なる時期に植物が開花することを
異時開花というのですが
これには複数のメリットがあって
ひとつは遺伝形質の獲得(例えば耐寒性)
他にも他種との交雑や競争回避があるそうな

似たような植物は梅、桃、桜、モクレンなど
みんな新芽が出るより先に花が咲く樹木です

このあたり実は解明されている途中でもあり
花が咲くことの生物的意義そのものにも
関わるのですが

通常、花は葉を形成して光合成したのち
花弁形成➡果実形成と考えられています

しかし本当は、葉を形成する遺伝子と
花弁を形成する遺伝子はまったく別物で
両者は異なるサイクルで動いているそうです

本来、植物というのは
花弁形成遺伝子を抑制して
葉などを形成する栄養成長遺伝子を
優先させているんだそうで

これを植物の基本状態とすると
あらゆる植物は基本的にとっとと
花を咲かせたがっているんですよね

それでもあえて
冬を選んで芽吹いてくる夏枯草

こういうのを冬萌というらしいですが
閑散として寂しくなった冬の大地
独りぼっちにならないよう
咲いてきてくれているとすれば

なんとも健気で愛らしい
植物じゃないですかね



※豆知識①
靫草は「邪気」から身を守る力があると信じられており、従って魔除けの力もあると考えらていた。実際、アメリカ原住民の一部の部族では、狩に出掛ける前にこの草の根を煎じたお茶を飲むことで、集中力が鋭くなると信じていたらしい。

※豆知識②
乃東=ウツボグサの雄しべは4つ、内側に短めの2つがあり、外側の2つが長い雄しべになっている。逆に雌しべは1つ。これは雄性先熟という仕組みで、異時開花するウツボグサが、獲得形質を得るために自家受粉を避ける工夫。こうやって遺伝的多様性を担保しているらしい

※豆知識③
花芽形成遺伝子のことを「フロリゲン」といって、基本的にこの遺伝子が茎の先端(茎頂)へと運ばれ、転写因子と結合することで開花を促進するのですが、逆にこの結合を阻害する「コンスタンス遺伝子」というものも存在するようで、この遺伝子がフロリゲンの結合を阻害して花芽形成にストップをかけるそうな。これは日長や温度、あるいは休眠打破を要求する低温要求型遺伝子とは別個の遺伝子的働きによるものです。このコンスタンス遺伝子の働き次第で、花芽が早咲きしたり遅咲きしたり、あるいは異時開花することになるわけですね

※豆知識④
コンスタンス遺伝子ののメカニズムはシロイヌナズナを使って研究がされてるらしいです
➡ 詳しくは京都大学生物科学専攻植物学・理学博士 荒木崇さんの論文および奈良先端科学技術大学院の2020年の記事を参照

https://www.lif.kyoto-u.ac.jp/j/research/research_results/



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