マガジンのカバー画像

小説「二十年の片想い」14~32

19
大長編小説「二十年の片想い」14~32(1991年9月。夏休みが明け、大学の後期の活動が始まる。文学部仏文科クラス編)
運営しているクリエイター

2024年3月の記事一覧

二十年の片想い 16

二十年の片想い 16

16.
 夏休み明けの最初の授業の日、開始前の教室は、久しぶりに会う友達同士で、どうしていたか、どこかへ行ってきたかなど、夏休みの話題で盛り上がっていた。夏の名残の太陽が、大きな窓から、幾分やさしくなった光を教室全体に注がせ、学生たちの笑顔を照らしていた。
 花枝、片山、高村、そして楓、大野があれこれ喋っていた。楓は内心の動揺を隠しながら、なんとか笑顔を維持していた。そんな中、美咲が教室に入ってき

もっとみる
二十年の片想い 15

二十年の片想い 15

15.
「花枝ちゃん。俺、おみやげは夕張メロンがいいって言ったと思うけど」
「将来、お金持ちにでもなったらね」
「白い恋人、か。花枝ちゃん、のろけちゃって」
「北海道のおみやげの定番じゃん」
 夏休みが明け、最初の授業の教室に入ると、花枝、高村、片山の三人が喋っていた。楓は、演劇サークルの同期と同じ感覚で喋ればいいんだと自分に言い聞かせ、思い切って声を大きくして、笑顔で自分からあいさつした。
「お

もっとみる
二十年の片想い 14

二十年の片想い 14

14.
「あ、え、い、う、え、お、あ、お、か、け、き、く、け、こ、か、こ、…………………ぱ、ぺ、ぴ、ぷ、ぺ、ぽ、ぱ、ぽ」
 まだ夏の輝きを残した九月の青空に、白鷺大学劇団「はばたき」部員たちの発声練習の声が響く。夏休みは明けていないが、十二月の冬の定期公演に向けたキャンパス内での稽古は始まっている。
「一年生もだいぶ声が出るようになったな。特に秋山。前期は耳を澄ましても全く声が聞こえなかったのに、

もっとみる