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道(携帯詩集)

小さなリンドウの花が並ぶ
始まりはいつもの道だった
柔らかな公園の光に子供たちは包まれて
慎ましげな横道には小さな雲雀たちが停まっている
少女は未来の自分の姿に気付かないままでいる
賑やかな町工場で懸命に針を刺す人々は
労働の歓びを感受しながら わんぱくな唄を歌う
私たちは生きてきた、 不確かな日々の祈りを
確かな明日へと繋いできた

お人好しな男たちは旗を振る
古びた軽トラックから勢いよく身を乗り出し
急ぎ込んだ車たちを惚け顔で制止する
今日ははよ上がれるぞ
こんな所で徒に時間を食い潰しても…
背の高い森の樹は容赦ない日光の影を作り
蝉時雨の音だけが心の静寂を打ち破る
のんびりした顔のあの人は言った、
お前は若くて未来もあるなあ こんな仕事してはいけないぞと
青年はわらった、 傷だらけの毎日を送ってきましたから、と

運命づけられた〈時〉の十字路が
登場人物たちのあっけない衝突を用意する
蒼の少女はもう色彩のままではいられなかった
記憶の亡霊が冬の畦道を跋扈する
信じられないほど鮮やかに晴れた日の朝
青年は憔悴する
こんな生活は続けることができない
何食わぬ顔をした鬼たちが
永遠に通せんぼをする この道は通さん、この道は譲らん
そこで僕は眼を覚ます
此処は道の中途であり がんじがらめに張り巡らされた悪の迷路からは
未だに抜けることができない


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