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倉田学園事件(平成2年5月10日高松地裁)

組合委員長が、業務上都合を理由としてなされた休職処分および休職期間(一年)満了後の退職扱いを不当労働行為であるとして争った事例です。

結論:一部認容、一部棄却

本件の休職処分は、就業規則55条2項所定の業務上の都合としてなされたものであるが、就業規則59条では、第1項で「休職期間が満了したときは、遅滞なく復職を願い出でなければならない。」と定められ、第2項で「復職を許可せられない場合には、休職満了のとき退職したものとみなす。」と定められている点は争いがない。

昭和57年年3月1日、原告Xは、被告に対し、口頭で復職を願い出るとともに、同月17日には、書面で復職願いを提出した。しかし、被告は、昭和57年3月30日、復職願いを許可しないことにしたので、同月31日の経過をもって休職期間は満了となり、退職となる旨通知し、同時に、昭和57年4月1日から非常勤講師として採用すると通知し、以後原告Xを非常勤講師として取り扱った。

本件休職処分は、復職願いが許可されない限り、休職期間満了時に退職したものとみなされて、自動的に身分を喪失するものであり、事実上解雇(すなわち、整理解雇)に匹敵する処分と認められるから、安易に選択されるべきでなく、一年交替制の出向などの他の手段をとる努力がなされるべきものと考えられる。

一般に、使用者がその雇用する従業員に対して課する懲戒は、広く企業秩序を維持確保し、もって企業の円滑な運営を可能ならしめるための一種の制裁罰であると解されるが、使用者の懲戒処分の根拠については、以下のように考えられる。

すなわち、使用者とその従業員である労働者との法的な関係は、対等な当事者としての両者が労働契約を締結することによって初めて成立するのであるから、使用者の労働者に対する権限も、労働契約上の両者の合意にその根拠を持つものでなければならない。

使用者の経営権は、労働者に対する人的支配権をも内容とするものではないし、従業員に対する指揮命令権も、労働契約に基づいて許される範囲でしか行使し得ないはずのものである。

したがって、使用者の懲戒権の行使は、労働者が労働契約において具体的に同意を与えている限度でのみ可能であると解するのが相当である。

もっとも、懲戒について個別の労働契約上の合意や労働協約がなくても、懲戒の事由と内容が就業規則に定められている場合には、使用者と労働者との間の労働条件は就業規則によるという事実たる慣習を媒介として、それが労働契約を規律すると解されるが、就業規則に定めさえすれば、どのような事項であれ、使用者と労働者の間はこれによって規律されるというような事実たる慣習は存在しないから、就業規則に定められた事項のうち事実たる慣習を媒介として労働契約を規律する事項は、労働契約によって定め得る事項、すなわち、労働契約の内容となり得る事項に限られるというべきである。

そうすると、使用者が一定の場所(懲戒権の行使の場合も含む。)に雇用としての同一性を失わない範囲内で労働者の職務内容を一方的に変更し得ることを就業規則に規定することはできるとしても、社会通念上全く別個の契約に労働契約を変更することは、もはや従来の労働契約の内容の変更とはいえず、従来の労働契約の終了と新たな労働契約の締結とみるほかはないから、このような事項は、労働契約の内容とはなり得ない事項であると考えられる。

したがって、就業規則にそのような事項が定められても、それは労働契約を規律するものとはなり得ないというべきである

そこで、本件についてこれを検討するに、被告が懲戒処分として降職処分を就業規則に定め得るとしても、それは、同一の労働契約の内容の変更とみられる職種の変更に限られるというべきである。

そうすると、A校の前記就業規則中、校長から教頭への降職や教頭から教諭への降職に関する部分の規定は、事実たる慣習を媒介として労働契約を規律し、これを根拠にそのような降職処分をすることは許されるということができる。

しかし、教諭から常勤又は非常勤の講師への降職は、終身雇用が予定された契約からこれを予告しない契約に変更するものであって、社会通念上教諭としての労働契約の内容の変更とみることはとうていできないから、A校の前記就業規則を根拠に、教諭を常勤又は非常勤の講師に降職する懲戒処分をすることは許されないものというべきである。

そうすると、本件降職処分は、そのような懲戒権発生の根拠を欠く懲戒処分として無効であるといわなければならない。

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