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極度額っていうと、再請求できそうな身元保証

令和2年4月1日民法の大改正が行われた。
その中の改正事項の一つとして、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約であって、保証人が法人でないもの(個人根保証契約という)について極度額(保証人が負担すべき額の上限)を書面または電磁的記録で明記することが義務づけられました(新民法465条の2、446条)。

当事務所では入社時の従業員に誓約書のほか身元保証書を差し入れさせる事業所がそれなりにあり、その時期に勉強会を開いて注意喚起を促した経緯がある。

「令和2年4月1日以降に差し入れる身元保証書については、極度額の定めがないと無効になりますよ。」

令和2年4月1日前の身元保証書は従前の例によるわけだが、起算日から3年後か5年を上限にいずれ満了する。自動更新条項があるから、、、、なーんて呑気なことを言っている事業所もあったが、とんでもない。
更新するにしても必ず身元保証人に対して案内する必要はあるし、何らかの更新の承諾を取る必要はあるだろう。

身元保証に関する法律第3条にもこう書いてある。

・当該社員に業務上不適切や不誠実な事柄が発生し、そのことが原因で身元保証人の責任問題が生じるおそれがあるとき
・当該社員の役職や業務内容、勤務地などが変更され、それに伴い身元保証人の責任が重くなったり、または身元保証人の当該社員に対する監督が難しくなるとき

これらに該当する時は、遅滞なく身元保証人に通知する義務があり、通知懈怠でも身元保証が無効になるわけではないが、いざという時、身元保証人に対する責任が軽減あるいはゼロになることが予想され、また身元保証人はこの通知を受け取ったあと将来に向かって解除することもできるのだ。

そもそも、入社時に差し入れる身元保証書は、採用したての従業員が筆記試験や面接試験をパスして入社したとは言え、その人の能力、知識、技術などは当然未知の部分であり、また職業生活を送る過程で能力の発揮や教育訓練、知識技術を身につける上で、会社に損害を与えてしまうことがあり、それに備えて身元保証書を差し入れる場合が多い。

その身元保証書が3年か5年上限の期限満了して、「再び更新する」のは特別な業種や職務形態ならいざしらず、3年から5年も経過すれば、身元保証人に頼ることなく事業所の管理監督責任で十分その役割を果たすことができるだろう。そのため一定の職種などをのぞいて、多くは更新は不要だろう。

今回、就業規則を作成するにあたり事業所から質問が届いた。

極度額100万円として身元保証書を差し入れてもらった。
その後、300万円の損害が発生し、身元保証人にその3分の1の100万円を求めたところ、即日支払われた。(従業員と身元保証人の負担割合の良し悪しはココでは考慮しない)
後日、別件で100万円の損害が発生し、そのうち30万円を身元保証人に請求したところ、身元保証人はすでに100万円の支払いを理由に、支払いを拒否した。

これは正しいことか? そうです、正しいです。

極度額というと、一見、「100万円の枠」があるイメージ。
60万円を請求した。40万円の枠が残っている。
60万円を支払った。60万の枠が回復し100万円枠にもどった。
つまり身元保証人が支払ってくれる限り、100万円の枠内で何度も請求することができる。
しかしこれは間違い、上記の例では、
60万を請求して支払えば、残りは40万円枠で、以後40万円を超える請求はできない。仮に100万円を請求し支払った場合は、以後請求することはできない。
請求するためには、新たに別の身元保証書を差し入れてもらわなければならない。

だが、そんな従業員に、誰が差し入れるだろう。

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