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セクハラによって鬱病等に罹患したと主張して、行為者と学校法人に損害賠償金支払いを求めた事案(令和1年6月28日京都地裁)

概要

被告学校法人に雇用され、被告学校法人が設置、運営する高等学校の常勤講師として勤務していた原告が、本件学校の当時の分室長であった被告から、セクハラを受け、これによって、うつ病などにり患したと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金を、被告学校法人に対し、使用者責任に基づく損害賠償金及びこ遅延損害金を、連帯して支払うことを求めた。(学校法人つくば開成学園事件)

結論

一部認容、一部棄却

判旨

本件各行為(身体的接触・性行為等)違法性については,いずれも,本件学校の分室長と,雇用後1年少々の常勤講師であった女性教員の,立場の違いなどにより,女性教員が強く拒絶できない状況で,分室長が,この状況に乗じて,女性教員の意に反して行ったものといえ,これが女性教員の性的自由を侵害することは明白であり,本件各行為は,女性教員に対する不法行為を構成する。

本件各行為とうつ病や不安障害との間の相当因果関係について,女性教員には,幼少時に父親から性暴力を受けたなど,不快な出来事の記憶があり,精神科での通院治療を必要とするような症状があり,これらの病状が,女性教員のうつ病などの発生に寄与した可能性は否定できないが,女性教員が,本件各行為のかなり前である平成22年11月初旬から,約1年半も,精神科の受診歴がなく,平成22年11月初旬からクリニックの初診時平成24年5月10日までの間に,明らかな器質的原因,精神症状及び他覚的所見が,いずれも認められておらず,また,本件各行為は,望まない身体的接触や性交渉という内容に照らし,女性教員にとって大きな心理的な負担であったと推認できるから,少なくとも,本件各行為と女性教員の不安障害,うつ病及び適応障害との間には,事実的因果関係があるといえ,また,これらに加えて,本件各行為の態様などをも踏まえると,本件各行為によって,うつ病,不安障害及び適応障害が通常生ずべきものと考えるのが相当といえるから,本件各行為とうつ病,不安障害及び適応障害との間には相当因果関係がある。

本件各行為と心的外傷後ストレス障害(PTSD)及び解離性障害との間の相当因果関係について,性交渉の場面が治療の中でたびたび現れること,過覚醒症状があること,部屋の中にそのとき着ていた服があると思うだけで耐えられないため捨てるなどの行為(ストレスの原因と関連した刺激の回避と考えられる)が認められ,女性教員がPTSDにり患していることが認められるというべきであるから,本件各行為と女性教員の症状との間には,相当因果関係がある。

女性教員は,現在働くことができず,第5級の1の2に該当する後遺障害があると主張するが,本件各行為が行われた平成24年夏以後も,国内外を複数回旅行するなどしており,中には,アメリカ合衆国も含めた一人旅もあり,また,個人的なものとはいえ,海外の芸能人の来日に合わせ,ファンイベントを主催したこと等の事実等からすると,女性教員には,大学院卒の高い知的能力のほか,さまざまな能力があり,現在,労働が困難であるとしても,全くできないわけではなく,少なくとも服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(第9級の7の2)に該当すると認めるのが相当である。

学校法人は,本件学校の開校以来,管理職に対し,セクハラ問題について強い危機感を持つように注意し,また,学校法人の理事長は,2か月に1回の頻度で,本件学校に赴き,職員に対し,口頭でセクハラ防止のために指導,監督をしていたから,民法715条所定の免責事由がある旨主張するが,仮に,学校法人が主張するような措置が執られていたとしても,学校法人の京都校には,セクハラの相談窓口がなかったことが認められ,このような状況下で,本件各行為の当時,性的被害に関してしばしばみられる被害者の対応など,セクハラが発生する背景に対して,どれほどの理解があったのか,実効的な指導がされていたのか,疑問というほかなく,学校法人の主張は採用できない。


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