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ポエム帳

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酔っぱらったときに書きます。
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2014年12月の記事一覧

病床にて

よくない夢を見た。目が醒めているにもかかわらず。その夢の一端は夕刻の路地裏で、あの店のいつもの席でナンシーの赤いマニキュアが光った。ぼくはその店を一度だって訪れたことはないし、吸い込まれそうな路地裏の夜の気配に臆病になって、通りから少しのぞいたばかりで過ぎてしまったのが精々だ。だけどその席がナンシーのいつもの席なのはすぐに判った。何故ならナンシーはその座り心地の悪そうな椅子にさえ、吸着されたように

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海が燃えて

あなたの髪はとてもいい匂いがする。それは別段花の香りがするんでも、果実の香りがするんでもなく、ただあなたの匂いがして、ぼくはそれが好きなんです。座り心地に長けたくたびれた革張りのソファみたいに優しくて安心する。顔を埋めたらもう二度と帰って来られなくなるような、帰らないことを選びたくなるような……。
ここで死にたいと思った夜があって、山際の小さな部屋の、水色の浴衣は雨に濡れて、僅かな自販機の灯りと町

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踊り子

夜はとても素早い。願えば遥か待ち侘びさせて、惜しめば一切の情も見せずにゆく。それは淋しさの在り方ではない。むしろ祭のあとの静けさの際立つのは、本来あれは静けさなどではなく単なる日常の回帰に過ぎないのであるが、やはり華やかな幸福の足跡は余分に深い汚泥の澱みを見せるらしい。今をもって絶望と初対面の挨拶を交わしたような青春後期のやつらは、得てして大いなる思い違いをしている。やつらは何、絶望なんて知りやし

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夢なのに

 秋は深まりやがてこの季節。十二月ともなれば人はみな忙しなく、ぼくだけが取り残されたように今年が終わろうとしている。年末年始の予定など、みな口々に話し合っているところであるが、ぼく自身どうして時が過ぎるのか判らないまま、夜は寒く、炬燵布団に潜り込んでどうにかやり過ごしている。暗くてここから動きたくなくて、肴が尽きても瓶の中に残った赤ワインをただただ啜り、顔は赤らみ息は白く、それでも身体は一向にあた

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