踊り子

夜はとても素早い。願えば遥か待ち侘びさせて、惜しめば一切の情も見せずにゆく。それは淋しさの在り方ではない。むしろ祭のあとの静けさの際立つのは、本来あれは静けさなどではなく単なる日常の回帰に過ぎないのであるが、やはり華やかな幸福の足跡は余分に深い汚泥の澱みを見せるらしい。今をもって絶望と初対面の挨拶を交わしたような青春後期のやつらは、得てして大いなる思い違いをしている。やつらは何、絶望なんて知りやしないのだ。単に煌びやかな季節の過ぎたあとで、それ以前の記憶を飛ばしてしまっているだけの話なのだ。やつらに久しく親しみを込めた日常の名目が、いかんせん絶望にほど似たものなのだとしたら、それははなからやつらの人生のおおよそが、絶望によって形づくられていただけの顛末なのである。
ぼくは明日に焦がれながら、その背姿をおそれるばかりに、この夜が終わらなければいいとさえ思っている。ああ、たとえば、今日という日に楔を打って、永遠にぼくを置き去りにしてくれたなら……。夜は止められない。季節さえもはや冬である。幽かに泡吹くオリオンビールと、土産物の洋菓子と、その噛み砕いた屑と、外に水の流れるこの場所の椅子の低さよ。夜がぬめぬめと頭上を抜け出して、あの電波塔の向こうまで朝陽を連れに出かけたなら、ぼくはもう立ち止まれなくなる。零した菓子の欠片を見ては、その不義理さに往生し、いつのまにか飲み干しかけたオリオンビールの星の向うに、低く愛らしい声で鳴く子猫の姿を認め、湯上りのその柔らかい毛並の湿り気を、ぼくは赤切れのした指先でそっと撫でつけるのだった。

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