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空の木【詩物語】


1200文字



幼い子供がいた


大空に浮かぶ雲の上にも
木がはえていると信じていた
雲の上にまだ知らない町だってあるのだろうと思っていた


きっと、ジャックと豆の木、も生えてるし
くじらくも、も泳いでる海のような青い空も
小学校の図書館でみたんだ


その子はいう


そんなかわった子どもは
ひとりでずっと空を見上げていた


くじらの背中に乗り
青空の上のもっとうえから学校の校庭を
ちょっとだけながめてみたいなと思いながら


あの桜の木はどう見えるの
のぼり棒もイチョウの木も見えるかな


ともだちと遊びつかれて
晩ごはんの時間にまにあうように帰るとき
夕焼け雲はおいしそうな色どり


青空のガラスびんに雲のフタ
オレンジジュース
トマトジュース
ぶどうジュース
きれい色で満たされていく夕焼けの不思議


ワクワクしながらネコを追いかけて
のどがかわいた
おなかが、ぐうと鳴ったね


かわった子どもといわれた
お利口にできずに
たくさんおこられて
少し悪いことをしたみたいで
さみしかった


空の上に木がはえていると
みんなには信じられないようだった



そのうち
かわった子どもは急に背がのびて
声が低くてへんになる
大きくなった


二十年がすぎて
恋をして
うで時計をするようになった
時間とたたかう大人になった


食べていくためには
空の木がみえない大人になるほうが楽で
くじらは海にしか生きられないし
ひとが登れる豆の木は
うそだよと
冬のある朝にとつぜん
わずかに残る空の木を折るほど
地面が揺れた


すさんでいても
成長したんだなと
ほめられるようになった


夢をみて空想すると
いつまで子供じみているんだと
なじられるから


夢は、やめた


そんなあじけない大人になった



あじけない大人は空を見上げることもなく働き続け
出会い別れて出会い別れて
さらに三十年がすぎた




誰かと出会い別れ、かなしみ、生死があることを
いやというほど知っては
空想を忘れ感情を忘れ
苦い水ばかり飲む大人のその子は
いつかオレンジジュースを飲まなくなっていた
ひとりぼっちで


夕焼けは遠かった


暗く悲しい自粛の時間がある日突然
誰のもとにも仕方なくおとずれた



うで時計がとまった



時間がはじめて、ごめんなさいと謝った


世界のみんなに謝っているように感じたある日


みんなが何かをたくさんうしなったし
みんなが何かにたくさん気づいた日



すこし、空を見上げるようになった



その日からその子が思い出したのは
あのころの空の木だ
みんなを背中に乗せて空を泳ぐくじらだ
いまこのときしか見られない夕焼けの
燃えるような色彩の
ジュースのようなオレンジ色の美しさだ



そうか



空には木がはえていてもいいし
本当はくじらだって泳いでいるのかもしれない
そら豆が雲までとどく木になるのかもしれない



思い出した



こころだ、大切なのは



夕暮れまで
全力でさんぽをした日
オレンジジュースがおいしいと
かつての幼い子が低い声でポツリと言った



noteをかくときくらい
かわった子どもにもどってもいいですか。


その子はいう。
きみのなかのその、子だ。


誰にもおこられずに空想してもいいですか


全力で遊びつかれてもいいですか



ぼくは、うなづいて微笑んだ。



あぁ、いいに決まってるよ



よかった。




ありがとう。




あの空の木にあいたい。





©べじさん


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