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「蛇」「夢」「窓」|三題噺

三題噺スイッチ改訂版から出力したお題で三題噺。

キャプションのイラストは最近話題のAIイラストジェネレーターの"Stable Diffusion"で適当に出力。

Oil painting depicting two snakes entwined in a field of white flowers. Unreal Engine, 4k.

コトバンク

向かい合う蛇

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白いベットからずるりと黒く滑りけのある生き物が這い出る。

蛇だ。夢の中で領主は蛇に変じていた。

太く長い体をうねらせて、月明かりの中窓を覗く。枝分かれした舌を1つ鳴らすと、蛇の体がガラスの中へ差し込まれた。波打った表面が水面であるかの様に抵抗はなく、束の間に頭が静謐な外気に晒される。

石造りの壁面にできた凹凸を、蛇は器用に足場にしてするすると領館を下りていく。最早尾の先さえ部屋から抜け出て、意のままに街へ下りた。

蛇が行く先はいつも同じだ。領地を出て山を訪れ、森に入る。白い花の群生地から伸びる一本の木だ。木を登れば小ぶりな卵がぽつんと小枝で作られた巣の中にある。親鳥はおらず無防備な姿だ。

蛇には具合のいい食べ頃の品だろう。舌なめずりをするように舌が出入りする。

蛇はその顎を大きく開く代わりににそっと鱗で包まれた体を卵に添えていく。それは親鳥に代わるかの様だった。

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領主はじっとりとした汗を感じながらふんわりと温かみの残るブランケットの中で目を覚ました。

ゆるりと身を起こすと白み始めた空からの光が、分厚いガラスで嵌め殺された窓から差し込んでいた。地に陽の光が差し始めている。農民たちはもう畑に出ている頃だ。

天蓋の下から這い出てガウンを羽織り、テーブルの水挿しを手に取ると一杯の水を組み入れ窓際に座す。ボヤケた景色の彼方を見通す様に領主は窓の向こう、南の山嶺へ目を向けた。

太陽が天中を過ぎる頃、南から騎兵に先導され馬車が街を訪れた。7日後、領主と婚姻を結ぶ公爵令嬢を連れた一団だ。

出迎えた領主は令嬢に目を奪われた。年老いた家令に手を取られながら箱から現れた令嬢には、幼い日に見た可憐さはそのままに、成人した美と気品を湛えていた。手入れの行き届いた白金の御髪は絹糸の様。淡い緑のドレスはスラリと引き締まった体躯を隠すことなく引き立てる。裾にだけあしらわれたフリルはヒールの足取りを軽やかに魅せた。

ほっそりとした指先から二の腕を包むロンググローブを家令の手に添えながら、南方土産の白い花束を片手に令嬢は領主の前へ赴いく。

小柄で領主からはやや伏し目がちに見えていた令嬢がスッと顎を上げた。形の良い大きな瞳をまつ毛が力強く印象付ける。通りの良い鼻筋は高い。領主が半ば無意識に旅路を労うと、ピンク味を帯びしっとりとした唇から奏でられる心を落ち着かせるハープの音色が応える。

豊かな大地で育まれた花の蕾が、今まさに華やかな花弁を開かせようとしていた。

嫁入りの礼と共に令嬢から花束を受け取ると、領主は長年夢に見ていた場所がどこに由来するのかようやく気づいたのだった。

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家令も席についた婚礼までの確認を兼ねた前祝いの晩餐でも、領主は度々令嬢に見惚れてしまっていた。気配を伺う家令がどこか満足気に見えたのは気のせいではなかっただろう。

少しの気恥ずかしさを思い起こしつつ、領主は令嬢の寝室の戸を叩いた。

女中の迎える声に応じて中へ入ると、体を清め寝間着で身を包んだ令嬢が楚々と座していた。女中は領主に向かって言葉少なに深々と頭を下げると、令嬢の側を離れ部屋を辞した。

領主は令嬢の斜向いに座り、女中が注いでいった紅茶を口にする。

令嬢はほのかに香るような笑顔を浮かべると、道中見た領地の風景や、日中気づいた館のあれこれを口にし始めた。周囲を気にかけていなければ出てこない様な些細な日常の気づきにひとつひとつ応じながら領主は緊張を和らげ、10年ぶりに顔を合わせる娘との対話を楽しんでいた。

はじめて会った時のことだ。成人したばかりの領主は父の名代として南の国を訪ねていた。令嬢はまだ10にもなっていなかった。

南の公爵の末娘である令嬢は庭園で花を摘んでいた。結婚相手候補の1人でもある令嬢との面通しだ。年は一回りほど離れていたしもっと領主と歳の近い令嬢の姉君に決まるはずだったが、顔は合わせておくべきと思ったのだ。

美姫と言われた姉君達に似て、当時から行くは絶世の美女と期待されていた令嬢だったが、領主の記憶は何よりも贈られた白いジャスミンの花冠と紐づけられていた。

うずまく政略の中、姉君達が他の諸国へ嫁ぐことが決まり、正式に令嬢を相手とする婚約が成ったのは今から3年前のことだった。

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躾けられた作法を賢明にこなそうとしていた令嬢の幼少を思いそれをふと口にした時だった。領主はテーブルへかけた腕にそっと何かが添えられるのを感じた。令嬢の玉のような肌につつまれたか細い指先だった。

ほんの一時逸らしていた目をその指先から辿って美貌へ向け、息を呑んだ。令嬢を前にして我を失うのは今日何度目のことだろう。

領主が向き合っていた令嬢から、微かに残っていたあの日の幼さが消え失せていた。

艶のある流し目に囚われた視線はもう外すことさえできないように思われた。ほんの少し前がはだけたナイトガウンの隙間から首筋、鎖骨、発達した胸元へと流れる曲線が視界の端に入っている。日の下ではドレスの上からしか伺えなかった令嬢の女性性が匂わされていた。

領主にとって一日にも感じられた束の間の後、添えられた令嬢の指先が腕を離れた。かけがえのないものが喪われたかの様な名残惜しさを抱えつつ領主は目線で追いかける。その足取りがどこに向かっているのかはすぐに分かった。

令嬢は夫婦で使えるよう設けられた天蓋付きの寝台に腰掛ける。組まれた脚は足首どころか太腿までも露出されていた。ガウンが脱がれれば覆われているのは胴体の僅かな範囲だけだ。

令嬢の目は、向けられていた領主の目と正対している。

領主はこの目つきに覚えがあった。夢で見ていた蛇の視線だ。食すべき獲物を前にしつつ、その時が来るのを今か今かと待ち受けている。ここに至ってようやく領主は眼前にいる女が、すでに自身の妻として居るのだと気づいた。

領主が歩み寄り天蓋の内へ押し倒すのを妻は当然と受け入れる。

妻の肌を包む最後の一枚を夫が口淫を結びながら剥ぎ取るのを、妻はさり気なく体をくねらせ手伝う。その仕草さえ艶美に映り、夫は次に自分の衣服を脱ぎ捨てる手を乱れさせた。

もはや待つまいと夫の帯に妻は手をかける。身を纏うものがなくなった夫妻は興奮で肌に滲んだ汗さえ厭わず絡み合う。お互いがお互いを欲して一対の蛇のように交錯した。

2人の交わりは深く長く、初夜を終えるのに一昼夜を要した。周囲の人々は夫妻の激しさに驚きを隠せなかったが、後日仲睦まじい姿を見るに連れ有り様を受け入れていった。

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南から公爵が訪れ諸侯に祝福された式が取り仕切られて間もなく、領主の妻は第一子を身籠る。

そのころには夫妻の仲睦まじさは領地に轟いており、民衆からは歓びの声が上がった。その後も5人、6人と夫妻は子宝に恵まれた。兄姉は妹弟を支える様になり、領主の執政は優秀な子らにより磐石になっていく。

やがて巻き起こった戦乱の中、領主は近隣諸侯を束ね1つの国を成した。後世には南北へ広大な地域を平定した初代国主として領主の名が刻まれている。伝えられるところによれば、家だけでなく国に献身を捧げた妻君の葬儀には総勢50人を超えた子、孫曾孫だけでなく数多くの領民が嘆き集ったそうだ。

長子に地位を譲った領主は隠居をすると、妻君が眠る数多くの思い出が残った生家へ籠もり、離れることなく余生を静かに過ごしたという。

ここまでが本編となります。読んでいただきありがとうございました。「スキ」やコメント、twitterなどで共有して頂けると励みになります。


発想のメモや反省として

蛇に対する執拗さや執念のイメージを習性に反した愛着のイメージで多面的に扱えないか

お題を多面的に機能させてみたいという思いもあり、今回の三題では蛇にまず注目した。

蛇は執拗さや執念深さのイメージに結びつく他、各種神話においても騙す、唆すといった悪性が印象深い。卵のような獲物を丸呑みにしたり貪欲さも思い浮かぶ。これを転換しあえて獲物を大事にさせる対比を考えた。

蛇に変じる夢、という形で人物の内面に焦点を当てる

蛇をそのまま登場人物として扱うか、という問題がある。

あまり検討はしていなかったけれど、そもそも蛇に対する悪性というのが人間性を投影した印象なので「蛇に変じる夢」というアイデアに率直すぎる感は残るものの方向性として間違いではないかな。

窓は建物の外界を切り取る額縁

窓は空気の入れ替えや採光という機能があるが、日本的には庭園を1つの景色として切り取るという建築美的な側面も持つ。

転じて外界に対する望みや遠方への憧憬を表す要素にできそうだ。

領主と令嬢の歳の差夫婦の初夜

ここまでを整理して蛇に対して獲物であるか弱い相手、中世~ルネサンス期くらいを想定した政略による年の差婚という大筋にまとまった。

基本的な構成は然程時間をかけずに決まったので、表現としていけそうかどうか素材を集めてみた。

蛇は卵生という印象があったけれど、多くは卵胎生で交尾をすることが分かったところで令嬢自身も鏡写しの蛇として扱い、性交までを描ければ令嬢側が獲物から領主と対等な存在に変えられそうだ。夢における蛇の扱いについて引っかかった素材からは蛇はマイナス方向だけでなくプラス方向にも大きな力の象徴として扱われていることが分かったので、文献的にもある程度整合性のとれた題材と言えそうだった。

全体としては何を書いて何を書かないかの引き算に苦労した話だった

前回の韻を踏んでみる様な、とくべつ構成上として不慣れな要素はないものの、どうやって書くかよりも何を書かないかについて考えたと思う。

夢の内容や令嬢側の視点、行間に消えた領主と令嬢の関わりや政略結婚におけるそもそもの背景など、書こうと思えば書ける部分はかなりある。今回に関してはどれだけの要素を書かなくていいものとするかに1つ注力してみた。会話文などで登場人物の具体的な言葉を書かないようにしたのも試みの一部だ。

肉付け/推敲がやや不足しているのは時間の使い方の問題

10月中旬には出せると思っていたものが週末に他予定を詰め込んだ結果最後まで小説としての推敲ができていないという有様で、あきらめとして10/31本日を締め切りに決めた。

結果文面については箇条書きを束ねた印象が個人的には強く、反省点として残る。

参考資料

蛇の交尾の時間・時期・生態と蛇の交尾の夢をみたら縁起がいい?

蛇は交尾の時間が長いです。蛇類の中でガラガラ蛇は23時間も交尾をします。ハブやマムシで半日で小さな蛇ほど長く大きな蛇は短いほうです。最も早く交尾をするのがチンパンジーです。交尾時間はたったの15秒で1分もかかりません。

【蛇の夢占い】蛇の夢を見た!蛇の色や大きさ別の意味の違いを徹底解説

プラスの意味
夢の中に出てくる蛇は、生命力、再生力、知恵、豊穣、繁栄などの象徴です。 蛇は幸運のシンボルとされていて、蛇の夢を見ると金運や健康運の向上、創造力アップなどプラスの意味を持つことがあります。

マイナスの意味
蛇は執念、悪意、誘惑、破壊の象徴ともいわれているため、蛇の夢は健康状態の悪化や災いが起こる警告夢の場合も。 蛇の夢を見た時に恐怖や危険な印象を受けたなら、マイナスの意味の可能性が高いでしょう。

【夢占い】蛇の夢の暗示は? 蛇の色やシーン別の意味43選

夢の中の蛇が暗示するのは「幸運や生命力」
蛇は、古来より「幸運」「生命力」「創造力」を意味している生物です。

そのため、夢に出ると大きな幸運、または生命力や想像力がアップするラッキーな暗示とされています。

蛇の夢を見たときにポジティブな印象を感じたのであれば、それは吉夢となります。

ただし、蛇には攻撃や危険などネガティブな意味合いがあるのも事実。

夢で感じた感情は、そのまま運気と直結するといわれているため、夢を見たときに「怖い」「気持ち悪い」「危険」と感じる、もしくはあなたが蛇と格闘しているような夢であれば、凶夢となってしまいます。

西欧建築の窓

2 窓と窓ガラス
現代では窓ガラスが無い窓は考えられないが、窓ガラスが一般的になり普及したのはそんなに昔のことではない。 日本では明治後期~大正(すなわち20世紀初頭)に入ってからのことであり、西欧でも、窓ガラス自体は古代ローマからあったが、一般庶民が使えるようになったのは17世紀以降の事になる。 窓ガラスが無い時代の窓に思いを馳せるとその不便さと弱点の防止の苦労が忍ばれる。

中世の窓とガラス

しかし一般市民にはガラスは高嶺の花であり、中流階級に位置する人はドアや板戸に菱形、ハート型に穴を開けて、そこに羊の皮を薄くのばした羊皮紙を張っていました。羊皮紙は薄かったのでぼんやりと光が入ったのです。もちろんそんなには光ははいりませんが暗闇よりはましです。

3分でわかる窓ガラスの歴史!ヨーロッパはいつから使われはじめたの?

意外すぎる!?ガラス窓の歴史 日本の場合は?
実は、ガラスの技法は日本の方が早い、と言う説があります。
遡って縄文時代、そして弥生時代にはすでに勾玉の
出土があったぐらいですから。
しかし、窓に使用する板ガラスの普及は明治維新の後です。
それまでにも西洋ガラスの流入はありました。
しかし、人々が窓ガラスの使用に飛びつかなかったのは
障子窓が用途を満たしていたからでしょう。
やがて、一度はめたら取り替えなくていい、と言う利便性から
高価ながら輸入板ガラスを使用した窓が普及しました。
しかし、高いのに割れやすく輸入にリスクを伴います。
そこで明治後期には国産ガラスの工場ができ、
様々な技法も発達し現在に至ります。

Q:窓にガラスが入ったのはいつ?

クラウン法
12世紀から13世紀の十字軍の遠征で、ヨーロッパ人は初めて4〜7世紀ごろにシリアで発明されたクラウン法について学びます。それをもとに、1330年にフランスでクラウンガラス(Crown Glass)が発明されます。

Diderot Encyclopedia Making Crown Glass 18th c (public domain)

中東では小さい丸いガラスをそのまま使用しましたが、新しいクラウンガラスでは円を大きくし、いくつもの長方形を切り出すという方法をとります。

最初に種を吹いて球形ガラスを作ります。それにポンテという鉄棒の先を溶着させて切り開き、回転しながら遠心力を使って大きい円形にしていく方法です。

冷えたらそれをいくつもの長方形に切ります。真ん中の部分はブルズアイと呼ばれ、それも窓ガラスに使われました。

花言葉で独占欲や嫉妬、執着束縛「あなたは私のもの」を意味する花とは?

花言葉であなたは私のものを意味する花
かぐわしい香りが特徴的なジャスミン。

その花言葉は「あなたは私のもの」「あなたについていきます」

その他に「優美」「官能的」というようなジャスミンのかぐわしい香りから生まれた花言葉も。

「あなたは私のもの」という花言葉は、ジャスミンの花を男性が女性に贈る際に、髪の毛に編みこむというインドの風習が由来。

ジャスミン

分布・生育地
アジアからアフリカの熱帯あるいは亜熱帯地方が原産である。

編集履歴

  • v1.0 公開 (2022/10/31)

  • Stable Diffusionから生成した画像を添付 (2022/11/07)

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