見出し画像

自転車泥棒/呉 名益  感想

今年になって、中国語を勉強し始めました。
語学の勉強は終わりの見えない長距離走のようなものだから、できるだけ「楽しいこと」と抱き合わせでないと続かないということを、6年にわたる英語の勉強で感じていたので、これから中国語と長く楽しく付き合っていくために、中国語に絡む「楽しいこと」を見つけたいと思って手に取ったのが、こちらの呉 名益さんの『自転車泥棒』という本でした。

(厳密にいうと、台湾の言葉は台湾華語と言って、所謂ちゅうごくご(普通話)とは違うのですが)

自転車泥棒/呉 名益

台湾で作られた重量級の自転車のコレクターである主人公が、自転車の歴史を辿りながら、失踪した父親と様々な自転車めぐる物語を紐解いていくお話。ストーリーは1本路ではなく、樹木の枝葉のように分かれて複雑です。純文学の空気感を感じました。

余談ですが、Instagramでこの本についてご紹介ところ、台湾の方からコメントをいただき、その方もこの話は複雑だとおっしゃっていたので、そういうつくりの小説なんだと思います。

翻訳者の天野健太郎さんは、この本の完成を見届けてすぐ、病気で亡くなられています。その天野さんによるあとがきには、この本は「『もの』が基点となって『記憶』が樹木のように広がっていく」と評されていて、正にそう、そのとおりだなと思いました。

訳者が素晴らしいからでしょう、和書を読んでいるような感覚を何度も覚えました。日本が台湾を統治していた時代に、沢山の日本のメーカーが台湾に進出しており、企業の歴史についても触れられています。資生堂の成り立ち等も書かれていて、これ1冊を書き上げるのに著者は相当に膨大な資料を読み込んで仕上げたんだろうな感じました。

(もちろんこの本はノンフィクションではないので、ある程度著者によるフェイクもあるのだと思います…それでも圧倒されます)

本の表紙、そして挿絵にとても精緻な画が使われているのですが、これらは著者によるものだそう。どれだけ才能があるのか…驚嘆です。

ちなみに、原書は諸般の事情で台湾語ではなく中国語で書かれたのだそう。いつか原書を読めるようになる日がくるといいなと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?