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山伏修行その4_名前を失くした夜

今年は5年目になりました。
独特の緊張感はあるものの、落ち着いて過ごすことができたと思います。
でも去年から下山時には必ず痛くなっていた膝のことがきがかりでした。まぁ痛くなったら皆んなから遅れてのんびり後ろの方歩けばいっかー、なんて軽くというか甘く、というか適当にサボろうというか…そういう考えでいたんです。ほんとダメな奴。
そしたらそんな考えはすぐ見透かされるんだな、ということをまざまざと見せつけられます。受付終わって白装束に着替えて始まりを待っていると、またも先達の息子、聖さんである。

「三代さん、ちょっと」

ん…またなんかあるか…?

「三代さん言うの忘れてたけど、今年おたち」

え、え、えええええ?!

"おたち"というのは、宿坊出発の時、山歩きの時の小休止からまた歩き出す時、外での勤行が終わってその場を発つ時などなど、なにかしらの出発の合図として鳴らされる星野先達のほら貝が鳴り終わると大きな声で「おたぁ〜ち〜!!」と言う係なのである。
それに対して他の皆さんは「うけたもう〜!!」という形。
それだけではなく、常に星野先達の真後ろ(参加者の先頭)を歩かなくてはいけないのである。。ここで私の膝が痛くなったら後ろをダラダラ歩く、と言うプランが消滅した。。
結果膝はめちゃくちゃ痛かったけど、痛くならないように終始自分の重心に気を使いながら歩くと、随分前のめりに歩いていたんだなと気づく。これもギフトですね。

今年は初めて不思議な体験をした。
1日目の夜、その日の行程は終わり寝巻きに着替えて布団に横になった。他の参加者の女性たちのたてる身支度の音を聞きながら目を閉じていたら、急に胸がザワザワッとした。
それはなにかを感じようとした。そうしたら、自分の名前がわからない感じがしたのだ。もちろん分かってはいて、三代史子だ。とは思うのだが、どこか自信がなくて不安を感じる。
そこで私は、自分の地下足袋に名前を書いておこうと思い立つ。どこかしらにあったマッキー片手に玄関へ。自分の地下足袋を見つけて名前を書く。

「瑛扇」

三代でも史子でもなくて、瑛扇。山伏名である。この意味は修行後に分かるのだけど、、

つづく、とさせてください。

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