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エコール (innocence, 2004)

「少女」と呼ばれる時代を過ぎて、寄宿学校の外の世界に初めて出る時。

最後の別れ際に「ねえ、私たちはどうなるの?」と聞かれた先生の答えに、胸が苦しく詰まる。「ここでのことを、すぐに忘れるわ。」

一生のうちのほんの一瞬。無垢だった時間との、永遠の別れ。

無垢であることを美しいと感じる気持ちは、一体どこから来るのだろうか?と、暗闇みたいな観客席を前に舞台上でバレエを踊る少女たちを見ながら思う。そのステージに薔薇の花を投げた男性の感情を。何も恐れず、疑わず、素直にその花を受け取る少女の気持ちを。大人による教育というあまりにも一方的なコントロールと、価値観の植え付けを、思う。

私たちはみんな、幼いこと、若いこと、汚れていないことに価値があるのだと教え込まれて生きてきた。それが幻だったと自分で気付くことができるだけの年齢や経験を重ねる頃には、もうそれ以前の時間の痛みを鮮明には思い出せない。だから、少女たちの姿も、会話も、質問も、先生の「すぐに忘れるわ。」も、すべてが悲しいくらいに懐かしい。死に別れて忘れ去っていた幼い自分と再会して、遠くから眺めることを叶えさせてくれるような、儚く残酷で美しい時間をみた。

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