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血がこわい

血液が怖い。
痛みを伴うものを見たり聞いたりすると、血の気がすっとひく。

こういうことで怪我をしたことがあるという話をきいたり、
ドラマとか映画とかの手術のシーンを見ても、息がとまる。

妹が豚の解体を見て面白かったと言っていたけれど、
私はたぶん卒倒すると思う。

大学の授業の、
カエルの解剖でもけっこうきつかったのに。

力を込めて、ごり、と骨を潰しながら魚の頭を落とし、銀色の腹を切り開く。ひとかたまりの贓物を掻き出す指先に、ろっ骨の内側の細やかな硬さと、脈打ってわななく赤い力が伝わる。痛くてこわい、と死を拒む力。ほんの一瞬、自分が腹を割いている方なのか、割かれている魚の方なのか、入り混じってわからなくなる。痛い、痛い、と自分の下腹にも赤い力を感じながら、痺れるような心地でみずみずしい肉を骨から切り離した。はあ、と大きく息を吐く。

彩瀬まる「やがて海へと届く」

彩瀬まるさんのこの文章を読んだ時、はっとした。
そっか。
血液が怖いのでない。
捌かれる生き物と自分との境目がなくなって、その痛さを味わう恐怖を感じていた。

「共感」するということは、人と人の境目を無くすように、
「共感」は、人と動物の境界線をも超えてしまうのかもしれない。

私って、カエルに共感していたんだ。
血液恐怖症がちょっと治ったかもしれない。


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