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得意・苦手≠好き・嫌い

 「苦手なことではなく、得意なことに目を向けた支援を…」

発達障害支援関連でよく聞くフレーズ。私はこういう言葉を聞くといつも、なんとなく腑に落ちないのです。当事者から言わせれば、「得意なことがないから困ってるんだよ!(泣)」

発達障害というものがだいぶ広く世の中に知られるようになりました。ただ、メディア等での発達障害者の取り上げ方にはやや問題があると感じることも少なくありません。

たいがい、「○○さんは△△がとても苦手です。でもこんなに素敵な絵を描くことができます!」といった具合です。

素晴らしく絵の才能がある人、ピアノをすらすら弾ける人、コンピューターより計算が速い人、ある種の物の名前をすべて覚えている人…

確かに、発達障害の人の中には、物凄く秀でた才能を持っている人もいて、それが生業につながっている人もいます。でも、そういう事例ばかりが取り上げられるため、大半の人はそのような傑出した才能があるわけではないということが忘れられているような気もします。「発達障害の人=何かしらすごい才能を持っている人」のような認知のされ方が広がることを私は危惧しています。「得意なことを伸ばす支援」っていうけれど、本当に困っているのは、私のように、これといって「得意なこと」がない人たちなのです。


ここで気を付けなければならないのは、得意・苦手ということと、好き・嫌ということを混同してはならないということです。ここが曖昧なために、冒頭のような違和感を与えてしまうのではないかと私は考えています。


「得意」ということは、本人が「自信を持てること」だと思います。いくら周囲の人が「この子は○○が上手だから得意なんだな」と思っても、本人が自信をもって取り組めることでなければ、それは「得意」とは言えません。だからそこを伸ばそうと周りが躍起になっても伸びしろはあまり期待できないかもしれません。

一方、「好き」ということは、わたしが「わたし」と感じられることだと思います。以前の記事でも触れたことがありますが、「わたし」という実感、着地点のようなものがあるとものすごく安心できます。リラックスできます。私をはじめ、発達障害の人は、リラックスできる場面がとても少ないので、そういう時間は貴重です。「好き」ということは、少なからず「興味がある」ということだと思います。「好きなこと、興味があることにはすごく熱中して取り組める」というのは、個としての「わたし」と「わたし」という実感が一致している時だと思います。常にふわふわ浮いた、宙ぶらりんで不安な日々を送っている私にとって、着地点の存在は心強いです。


得意≠好き、苦手≠嫌い です。


得意・苦手というのは「結果」に重きを置く概念だと感じます。一方、好き・嫌いというのはどちらかというと、「過程」を楽しめるかどうかだと思います。だから、いくら周囲の人が「この子はこれが得意だろう」と思っても、本人が心から楽しんでやっていることでなければただの作業になってしまい、あまり意味がないし、苦手だと感じることでも本人がその過程を楽しんでいるなら、結果がどうあれそれでいいのです。

足は全然速くないから「得意」とは言えないけれど、走ることは「好き」という人もいるでしょう。

私はお裁縫が「苦手」です。まっすぐ布を裁つこともできないし、縫うのもゆっくりしか進まないし、縫い目もがたがたになってしまいます。でも「嫌い」ではありません。ちくちく作業は楽しいと感じるし、時間がいっぱいあるなら刺繍とかにも挑戦してみたいです。(実際やってはいないけど…^^;)


本当に目を向けるべきは、本人の「好きなこと」「興味があること」だと思います。秀でた才能でなくていいのです。自信が持てなくてもいいのです。もっと言えば、少しでも好きなら、苦手でも、まったくできなくてもいいのです。これならやってみようかな、やりたいなと思えること、本人が「わたし」を感じて過ごせることにこそ、ヒントがあると思うのです。


ですが、ここでもう一つ問題があります。「好き」や「興味」がない場合です。少し前の私もそうでした…。

興味の幅がせまいのはわりとよくある話です。私も以前は、「興味のあること」自体が無く、ただただ毎日をなんとかやりくりして過ごしている…という感じでした。だから「宙ぶらりん」だったのです。着地点が見つからなからないのでした。

そんな私が初めて興味を持ったのは、今までの記事でも散々触れてきた「発酵」の世界でした。「発酵」に関することをしている時こそ、わたしが「わたし」を実感できる唯一の時間。これが見つかったことで、私は初めて、暮らしの中の「楽しみ」を発見できたのです。


「伸ばす」ということは二の次です。だって、着地点がまだ無いかもしれないのですから…。

まずは目の前の子をじっくり観察して、その子の「好き」や「興味」を発見することが一番大事です。でも、何かに興味を持ってもらおうと色々な物を次々と無理矢理与えてしまうのもちょっと違うと思います。

その子が、何の理屈もなしに、心も体も自然と「楽しー!」「嬉しー!」「おもしろーい!」と思えること。心も体も自然とぷくぷく良い感じに発酵してきて、思わず踊りだしたくなっちゃうようなこと。

ゆっくりゆっくり、その子が自分のペースでぷくぷく発酵して、自分の「好き」や「興味」見つけることの伴走者になるつもりで…。その子にとっての「わたし」という着地点を、一緒に少しずつ見つけてあげることが、支援の第一歩だと、私は思うのです。

#発酵 #発達障害 #好き・嫌い #興味 #支援


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