罪の王冠
※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5
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泣かないでください。
これは私の贖罪なのですから。
私の父はこの国を戦争へと導いた。
例えそれが家臣の陰謀であったとしても、真実を知らなかったのだとしても、その事実は変わりません。
父はこの国の王でありこの国を導く立場にあった。
全ての国民を守るべき王がこの国を戦場にしてしまったのです。
多くの命が失われ国中が焦土と化した。
家族を失い、恋人を失い、友人を失う。
人命の尊さは戦意にすりかえられ、人間の尊厳を無視した蛮行がまかり通る。
……ほんの少し前までの話です。
戦争を経験し生き残った人々は今でも覚えているのですよ。
あの時王族は何をしていたのかを。
私達はあの時、家臣に守られて地下深くに避難していた。
国中が焼かれ国民の多くが死に逝く中で。
だから……彼等の怒りは当然のことなのです。
国民が苦しんでいる中、戦争を始めた王族だけが守られ生き延びたのですから。
父は死の直前まであの戦争を――自分の決断を悔やんでいました。
他国の政治的判断があったとは言え、敗戦後も生き延びている自分を責めていた。
私は一度だけ寝ている父が「殺してくれ」とうなされるのを見たことがあります。
その時私は……恐くて父を起こすことも、その場を去ることも出来なかった。
その父ももういません。
次は王位を継承した私の番です。
私は生涯をかけてこの国を立て直し、失われてしまった命への贖罪を続けなければならない。
例え国民に罵られ踏み付けられようとも。
だから……あなたが泣く必要はないんです。
私はこの国の王なのだから。
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贖罪:しょくざい
焦土:しょうど
尊厳:そんげん
蛮行:ばんこう
アドリブによる台詞の追加やアレンジ、人称や語尾変更ご自由にどうぞ。
素敵な写真は下記サイトからお借りしました。
http://free-images.gatag.net/tag/water-crown (c)Jeriff Cheng