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降車ボタンバトル

※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5

【名前】にはお好きな名前をどうぞ。

GAME START
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さあお待たせいたしました!
いよいよ降車ボタンバトルの開催です。
ルールは簡単。
バス車内にある降車ボタンをいち早く押した者が勝者となります。
バスが出発し、降りるバス停の車内アナウンスが流れたらバトルスタート。
誰よりも早く降車ボタンを押下(おうか)しろ!

では早速挑戦者を紹介しましょう!
男子高校鈴木君(仮称)。
若さと反射神経の良さで降車ボタンを狙う。
続きまして対戦者!
営業マン高橋さん(仮称)。
積み重ねた経験が生み出すテクニックは必見だ。

両者お互いの存在を認識したのか一瞬視線を合わせると臨戦体制に入りました。
高橋さん、余裕の腕組みで鈴木君を挑発します。
それに対し鈴木君、降車ボタンに手を添え好戦的な態度で迎え撃つ。
車内アナウンスはまだ流れない。
運転手の焦らしプレイか?!
ここは二人とも我慢の時間となります。

おっとここで第三者の介入だ!
同乗していた幼稚園児が鈴木君を指差しています。
「ねーねーお母さん、あのお兄ちゃんボタン押すのかな?」
「次で降りるのかもね」
「お兄ちゃんもボタン押したいんだね。僕とおんなじ」
鈴木君恥ずかしそうに目を泳がせています。
ボタンに伸ばしていた指を体で隠すように少し下げたぞ。
第三者の乱入に激しく揺さぶられる鈴木君。
一方高橋さんは無関係を装い続けている。
大人の余裕か? はたまた守りに入ったただのヘタレか?!

信号が赤になりました。
ここで車内に動きがあるようです。
高橋さんの隣におばあさんが座っていたのですが、立ちたそうにモゾモゾしていますね。
高橋さんそれを察したのかスッと立ち上がりおばあさんを通してあげます。
実にスマートな対応。
と、ここで出ましたドヤ顔です。
高橋さん、勝負中であっても車内マナーを忘れない余裕を見せ付けます。
鈴木君心なしか悔しそうな表情でそれを睨みます。
おや、ここで先程のおばあさんが運転手に話しかけています。
「桜町は次ですか?」
ここで運転手頷いて手元のスイッチを押したー!
『次は桜町、桜町です』
思いがけないタイミングでの車内アナウンスに一瞬動きが止まる二人。
その合間を縫うようにおばあさんが手近なボタンに手をかける!
どうなる! どうなる?!
『ピンポーン』
押したあああああ!!
勝利のボタン、押したのはおばあさんです!!
ボタンに手を伸ばしたままうなだれる鈴木君。
呆然とおばあさんを見つめる高橋さん。
運転手にお礼を言って空席に戻るおばあさん。
三者三様の表情で勝負は意外な結末を迎えました。
今までの緊張感が嘘のように車内の時間がゆっくりと流れて行きます。

敗者はただ去るのみ。
バス停まであと数メートルという所で、鈴木君と高橋さんが静かに席を立ち降車口へと向かいます。
本来なら危険防止のためバスが止まってから席を立つのが良いとされていますが……二人の表情を見ると何も言うことが出来ません。
そしてゆったりとバスが止まるのを待って王者、おばあさんの登場です。
場に溶け込み闘気すら隠すその手腕。
自ら勝機を引き寄せる度胸と行動力。
飄々としたその表情からは勝者の奢りなど一切感じません。
見つめるのはただその先にある降車口。
真の王者とは常の勝負の先を見つめる者なのか――と、おばあさん足元がぐらついた!
車内中が息を飲みます。
このままでは降車口に向けて転倒してしまう!
そこに伸ばされる二本の腕――鈴木君と高橋さんだあああ!!
両者がっしりとおばあさんを支えます!
「ありがとうございます」
おばあさんの笑顔に車内がホッとした空気に包まれました。
順に降車口を降りる三人。
地面に降り立った挑戦者達は満足そうに目を合わせると別々の方向へと歩き出します。
次に会った時はまた戦おう。
そう言い合うように。

いやー、実に素晴らしい一戦でしたね。
実況は【名前】がお送りしました。
あ、降りまーす!

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アドリブによる台詞の追加やアレンジ、人称や語尾変更ご自由にどうぞ。


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