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KOURYOU個展「KNOT」(天野画廊) レポート

わたしは、いっけん別の世界がハイパーリンクでつながっていく、ウェブサイトゲーム作品をつくっています。震災後、土地にねむる伝承と現実のつながりをさまよう作品をつくるようになり、2019年から「EBUNE(家船)」というアートプロジェクトで各地を実際に漂流しつつ、作品をつくっています。
去年(2022年 筆者注)EBUNEは大阪・西成に漂着しました。まだ大阪の限られた場しか知りませんが、太古からの芸術の源流が、今も連なる、むすび目のような場所という印象です。
ゲームをつくるとき設計図やもけいのようなものをつくるのですが、今回の展示では、西成でのくらしで得たものから、ここはどんな世界なのか試行錯誤して制作しました。
KOURYOU

会場入り口に貼られた手書きのステイトメントより


4月17日(月)より同月29 日まで、KOURYOUの個展『KNOT』が開かれている。KOURYOUは、レビューとレポートでも『EBUNE』プロジェクトを特集で取り上げているアーティストだ。ハイパーリンクによって様々な世界がつながるウェブサイトゲームを中心に、複雑な時間や場所のレイヤーが重なるペインティング、既製品や廃材、粘土などがコラージュ的に組み合わされる立体作品などをこれまでに多数発表し、近年では、瀬戸内国際芸術祭2019、VOCA展2019への選出、そして愛知県美術館に作品が収蔵されるなど高い評価を受けている(※1)


『KNOT』は、天野画廊という、大阪の地で長く美術を商ってきた歴史を持つ画廊で開かれており、両者の接点は、会場入り口にある手書きの、それ自体が展示と一体になったステイトメントに書かれる通り、昨夏から秋にかけて展開された『EBUNE大阪・西成漂着』にあった。様々なカオスに満ちた漂着のありさまを目撃した画廊主、天野氏の誘いを受けたKOURYOUは、自らが「発見」した大阪という「世界」ーー太古からの芸術の源流が、今も連なる、むすび目のような場所ーーがどのようなものかを「試行錯誤して制作」し、タイトルに冠されたKNOT=結び目という言葉をキーに新作と過去作を結びつけ、新たな世界として提示している。
観客はKOURYOUによるユニークな手書きのキャプションを手掛かりに、そこが「どんな世界なのか試行錯誤」することになるだろう。
筆者は4月18日(火)に会場を訪れ、KOURYOUへの取材と会場撮影を行った。以下、展示される各作品の写真と(ある場合は)KOURYOUによるキャプションを掲載し、『KNOT』の世界を紹介する。会期全体の日数は長くないが、興味を持った読者は是非、実際の「世界」を体感してほしい。


(※1)その活動の多様さからすれば意外にも感じるのだが、KOURYOU自身の個展は今回がまだ二回目だという。これまで彼女の作品発表はウェブサイトゲームやさまざまなプロジェクト、芸術祭への参加が多く、『EBUNE』をはじめそれらは今後も継続されていく訳だが、久しぶりに個展という形態での発表を行うことで、創作全体にどのような影響を与えていくのだろうか? 展示内容と同時に、そうした観点からも注目し、記憶しておきたい。




「KNOT」展、会場風景と個別作品

KOURYOUによるキャプションがある作品はそれのみをテキストとして付し、無いものは筆者が簡単にコメントした。


会場風景

展示会場の入り口から奥をみる。


展示会場の奥側から入り口をみる。


展示会場、入ってすぐ右には展示タイトルとステイトメントが貼られている。


手書きのステイトメントが貼り付けられた木材と展覧会タイトルの文字が成型され、着色された粘土。端には「むすびめ」の紐が垂れ下がっている。


芳名帳横の木枠には、これまでEBUNEがどのように漂流してきたかを紹介するアーカイブ冊子が置いてある。



『足元のスピリットデバイス』(アプリ版「キツネ事件簿」開発に向けた設計図・模型)

世界地図と1人の人間を重ねてイメージしたもの。EBUNEはじめる前の過去作。
2019年/非売 
所蔵・みそにこみおでん 
(KOURYOUによるキャプションより)
※VOCA展2019出品作



『小さな支配者』 2017年

EBUNEをはじめる前に作られた小作品。向かい合わせになる『足元のスピリットデバイス』同様、立体的要素と平面的要素が入り組んだ構造。時間のレイヤーも感じさせる。これも「設計図」なのだろうか?



一つだけ旧作(左端:『小さな支配者』)が新作と入り混じる壁。



『CYLINDER』(2023年)

ガラス瓶と、紙粘土の輪がはまった円筒形のプラスチック容器にカラフルなビー玉や綱が入っている。向かいの壁に立て掛けられた、同じく円筒形の作品『むすびめ』と対角に位置している。



左:『円筒の結び目』(2023) 右:『KNOT』(2023)


左:『噴水/水をまく人』(2023) 右:『イソノミヤ・種と噴水』(2023)


左:『イソノミヤ・種と噴水』(2023) 右:『FALLING』(2023)


『イソノミヤ・種と噴水』について
EARTHにあそびに来た、絵本を作っている大橋さんが、よんだ方がいいよ!と教えてくれた本が、柄谷行人さんという人の「世界史の構造」という本で、よみたかったけど時間とか色々なく、ユーチューブの解説動画をみた。
ソクラテスが生まれる前の古代ギリシャ(?)に、「イソノミヤ」という集落があって、そこは、よそから来た人ばかりでできていて、出入りも自由という所だったのに、何かめっちゃイイ感じだったらしい。
そこはなくなってしまったが、イソノミヤのナゾをさぐるのが、テツガクの起源になったとのコト。

オカルトの起源でもあるそうだけど、イソノミヤでは占星術は✖だったようで、幾何学とか科学が重要だったらしい。未来老人カネキが言っていることに近い。西成みたいな感じかな、と思った。
(KOURYOUによるキャプションより)

『イソノミヤ・種との噴水』キャプション



『FOUNTAIN』

①むらさきのフタを開け、水をギリギリまで入れる。
②肌いろのフタの中に水は入れない。
③1番うえに水を入れる。
④水と空気のあつで、ふんすいがじゅんかんする。
⑤永久きかんは作れないので、水が少しずつ肌色の空間にたまっていき、ふんすいは止まる。
★⑥肌色の水を人の力でいったん別の器か何かにうつし、①に戻る。ふんすいはフッカツする。

小さいふんすい
大きいふんすい
原理は同じ。
西成をイメージ。
協力:EARTH店主 寺川大地
(KOURYOUによるキャプションより)
2023年



『種』

人と人、ものとものの間、むすぼれとそれを映す鏡。そこにできる幾何学空間。種の形。
(KOURYOUによるキャプションより)
2023年



『FALLING』

別の世界へと落ちている瞬感と場のはざま。
(KOURYOUによるキャプションより)
2023年



『一つ目のFOUNTAIN』 2023年

小さな噴水が循環する作品「FOUNTION」の、もう一つの形。KOURYOUによれば、どちらも西成をイメージして作られ、構想の原理は同じだという。会期中、一部壊れてしまった部分を来場者と協力して修復した行為や、想定外に発生した泡などから、新たな意味も生まれている。



『靉靆模型』

支えあう2人の関係のゆれうごきの物体。
(KOURYOUによるキャプションより)
2019年/seiho企画プロジェクト「靉靆」参加作品



『シーチェンジ』(長谷川白紙「夢の骨が襲いかかる!」ジャケット原画)

海をわたり、次の土地へむかう。
2020年/非売
(KOURYOUによるキャプションより)



『むすびめ』

円筒の中での芽吹と、それをかこむ世界。大阪・西成は、歴史が円筒の柱のようにまっすぐつながるイメージ。
柱があるところにむすびめができる。
(KOURYOUによるキャプションより)
2023年



『EARTH 家船』

アートプロジェクト『EBUNE』で、淡路島から大阪にわたって来たもの。
西成に漂着後、EARTHを乗せて、色んな人の手にわたってきた。
2021年/非売
(KOURYOUによるキャプションより)




午後遅く、兵庫県立美術館の学芸員、江上ゆか氏が来場。手書きのキャプションが作品の物質性とコンセプトをつなぐ上でとても重要だ、と指摘していた。

左が江上ゆか氏、右がKOURYOU


兵庫県立美術館の学芸員、江上ゆか氏と。人力で噴水を循環させる作品『FOUNTAIN』の操作方法を教えているKOURYOU。


夕方になると、EBUNE大阪・西成漂着でも朗読のパフォーマンスをしたアーティストにして日経新聞の文化部記者である安藝悟氏、”芸術的目線から観光と人の動線を生み出す”を理念に掲げるアートハブ「TRA-TRAVEL」のディレクター、ユカワナカヤス氏が来場。筆者も含めて、今後の協働について、短時間ながらあれこれと会話が弾んだ。

左がユカワナカヤス氏、中央が安藝悟氏




天野画廊入り口。年季を感じさせるビル内の塗装と施工。ギャラリー内部とのコントラストが際立つ。


天野画廊外観
画廊が所在する星光ビルは複数のギャラリーが入居しており、互いの交流も盛んのようだ。


天野画廊外観
ビルは住宅街の中に位置し、ひっそりと佇んでいる。




展示概要

KOURYOU個展「KNOT」
天野画廊(大阪市北区西天満4-3-3星光ビル2F)
2023年4月17日~29日
11:00~19:00 日曜休み土曜17時まで
https://twitter.com/pyon27_ary/status/1638389518314385408?s=20




取材・撮影・執筆:東間 嶺 
美術家、非正規労働者、施設管理者。
1982年東京生まれ。多摩美術大学大学院在学中に小説を書き始めたが、2011年の震災を機に、イメージと言葉の融合的表現を思考/志向しはじめ、以降シャシン(Photo)とヒヒョー(Critic)とショーセツ(Novel)のmelting pot的な表現を探求/制作している。2012年4月、WEB批評空間『エン-ソフ/En-Soph』を立ち上げ、以後、編集管理人。2021年3月、町田の外れにアーティスト・ラン・スペース『ナミイタ-Nami Ita』をオープンし、ディレクター/管理人。2021年9月、「引込線│Hikikomisen Platform」立ち上げメンバー。


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