見出し画像

伊藤允彦インタビュー -【連載】家船参加作家 / CLIP.5-

作品「家船」は多数の作家と地元住民、様々な協力者によって共同制作されている。この作品への参加作家が個人では普段どのような活動や制作をしているのか、レビューとレポート3月号「家船特集」を皮切りに、各人へのインタビュー記事を連載形式で掲載する。
今回は伊藤允彦へインタビューを行った。

画像1

撮影=小池源良

伊藤允彦(いとう まさひこ)
林業技術職員/サーベイヤー*1 1987年静岡県生まれ
2011年静岡大学大学院農学研究科環境森林科学専攻修了
*1 現地に赴き、その土地の地形や、都市、建築物、石碑等の可視のものから、不可視化された慰霊や伝承、信仰、風習等を計測するもの。(伊藤による定義)

(聞き手=KOURYOU)
ー伊藤さんの今までの活動や作品についてご紹介いただけますか?

伊藤:大学時代には、土石流や斜面崩壊の解析を専門とし、山奥の大規模崩壊地や災害発生箇所でカメラや測量器具を使い、崩壊位置や規模のデータを取得していました(図1)。データを取得するためには、災害発生直後の被災地に赴くこともあります。まだ被災者がいるかもしれない土地の上で、定量的なデータを実務的に取得する中で、自分は災害そのものや、災害による死者と向き合えているのだろうかという漠然とした不安が当時からありました。

画像2

図1 四川大地震の崩壊地抽出(ALOS-2衛星画像を基に伊藤が作成)


ーそのような動機から伊藤さんの土地の調査とアートとの関わりが始まったのですね。

伊藤:現在、荒木佑介さんと共に、災害と慰霊という視点で各地の伝承や歴史、地形を調査していることの背景には、この学生時代に感じていた不安が動機としてあるように感じます。
私がKOURYOUさんをはじめとした作家の皆さんと関わりを持つようになったのは、ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校第2期(https://school.genron.co.jp/gcls/gcls-2016/)に参加したことがきっかけになっています(図2)。

画像3

図2 ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校 第2期成果展 『直接行動(ハプニング)を待ちながら』「美術土木の夢をみて」 撮影=伊藤允彦

ー成果展で発表された作品「美術土木の夢をみて」はどのような作品なのでしょうか?調査内容を図解するためのように見える地形図の色のグラデーションが美しいなと思うのですが。

伊藤:この作品では、国土地理院が公開している標高データから出力した微細地形に、10,000年オーダーでの地震、洪水等自然災害による建物の倒壊、火災の発生、浸水のリスクを表し、そこに都内の美術館をプロットしています。東京都は複雑な地形を有しているにも関わらず、都市開発や電車による移動が恒常化する中で、身体感覚として地形を捉えることが困難で、また、水害のリスクも地下放水路の整備により不可視になっています。美術館が持つアーカイブの機能を考えた時、美術館の直下にある東京都という地形が持つ災害の可能性を視覚化したく取り組んだものです。地形図のグラデーションは、洪水等自然災害による建物の倒壊、火災の発生、浸水のリスクの数値情報を組み合わせて算出しており、シミュレーションの結果を視覚化したものになります。

ー伊藤さんは普段林業の技術職員として働きつつも、その技能を生かして作品制作に深く関わっていらっしゃいますよね。

伊藤:新芸術校第2期の期間中に、同期である秋山佑太さんにお声かけいただき、江東区の民家を会場とした「BARRACKOUT」展(図3)に参加したことから、現代美術の企画やプロジェクトに関わるようになりました。

画像4

図3 『BARRACKOUT』「塵芥のボーリング・コア」撮影=伊藤允彦


ー「塵芥のボーリング・コア」はどのような作品なのですか?コンクリートの地面に木杭を突き立てているのでしょうか?

伊藤:作品のタイトルに使っている「ボーリング・コア」とは、土木工事等の施工前に地質や堆積物を調べるため採取する、円柱形の試料のことを指します。
展示会場となった旧松田邸には、ゴミが山積みになっていたのですが、多くが埋立地である江東区も、江戸中期の埋立や現在の夢の島及び15号地埋立処分場に代表されるように、ゴミを埋め立てられ作られた土地が多く、旧松田邸も江東区も、その歴史が積み重ねてきたものの共通項としてゴミがあるなと思い、旧松田邸にあったゴミをコンクリートで固め、「ボーリング・コア」に見立て、それを駐車場に突き立てました。


ー新芸術校卒業後はどのような活動をされていますか?

伊藤:個人のプロジェクトとして、最近は美術が都市や行政の政策の中でどのように受容され、ストックされているかを都市の表層から読み解くため、旧藤野町の「芸術の道」を調査したり(図4)、慰霊碑の成立条件を探すため、地元である静岡市で発生した「静岡大火」や「七夕豪雨」の記憶の継承のされ方を調べたりしています(図5)。

画像5

図4 藤野町「芸術の道」撮影=伊藤允彦

画像6

図5 七夕災害慰霊碑 撮影=伊藤允彦

ー旧藤野町「芸術の道」のお話、芸術動画で面白く拝見しました。多くの作家は与えられた条件内でどう自分の仕事をするかのみに注力してしまうのですが、伊藤さんはそれが成立する前提条件から考察する目線をお持ちなので「家船」プロジェクトに必要不可欠な存在です。専門知識をご教授下さる方はいますが、伊藤さんは一緒に作品制作をしながら(図6)(図7)知識をやり取りして下さるので稀有な存在だなと思います。

伊藤:私が調査の成果品として提供している地形や都市の形状などの情報は、地図や衛星写真等からも読み取ることが出来るのですが、その土地を歩く事による身体的感覚から見えてくることを重視しています。一緒に調査したり議論する中で自分の視点と作家の皆さんの視点の差異から、その土地のことを捉え直すことは、自分が考えている災害や慰霊のことについて議論を前に進めるきっかけにもなっています。

画像7

図6 「家船」作品の一部。伊藤が制作したハザードマップの図形からKOURYOUが描き起こしたもの 撮影=KOURYOU

画像8

図7 「家船」作品の一部。瀬戸内国際芸術祭2019を伊藤が鑑賞後、参加作家と話し合い導入を決めた入口の年表 撮影=KOURYOU

TOP画像「PostTown Bricolage」2017,中央本線画廊(うち、伊藤作成部分)


「レビューとレポート」 第12号 2020年5月
(パワードbyみそにこみおでん)