見出し画像

生誕一五〇周年記念 板谷波山の陶芸 | 泉屋博古館東京

 陶芸家・板谷波山の生誕150周年を記念する展覧会が、東京・六本木の泉屋博古館東京にて2022年11月3日より開催されている。12月18日まで。
 

近代陶芸の巨匠 板谷波山(本名・板谷嘉七)は、令和4(2022)年3月3日、生誕150年を迎えました。明治5(1872)年茨城県下館町(現・筑西市)に生まれた波山は、明治22年東京美術学校(現・東京藝術大学)彫刻科に入学、岡倉天心や高村光雲に師事しました。
明治36年には東京・田端の地に移り、陶芸家「波山」として数々の名作を生みだします。
昭和9(1934)年帝室技芸員に任命され、昭和28年には陶芸家初の文化勲章を受章しました。
波山は、理想の作品づくりのためには一切の妥協を許さず、端正で格調高い作品を多く手がけました。代表作の一つ、重要文化財≪葆光彩磁珍果文花瓶(ほこうさいじちんかもんかびん)≫は、大正6(1917)年波山芸術を愛した住友春翠によって購入され、泉屋博古館東京に継承されています。
この記念すべき年に、選りすぐりの名作と共に、波山が愛した故郷への思いや人となりを示す貴重な資料、試行錯誤の末に破却された陶片の数々を通して、「陶聖」波山の様々な姿を紹介いたします。波山の作品に表現された美と祈りの世界に癒され、彼の優しさとユーモアにあふれた人生に触れるひと時をお楽しみください。

プレスリリースより


今年リニューアルしたばかりの泉屋博古館東京。ガラス製品メーカーのHARIOが直営するミュージアムカフェも併設する。


 本展が開催される泉屋博古館東京は、泉屋博古館(京都・鹿ヶ谷)の分館として、2002年、住友家麻布別邸跡地に開設され、主に近代絵画や工芸、茶道具、能面・能装束を所蔵している。
 そして今年春にリニューアルオープンし、ビジネスエリアのど真ん中と言える様な場所にありながら、非常に落ち着いた雰囲気のある空間になっている。


序章:ようこそ、波山芸術の世界へ

 波山の陶芸の特徴は、東洋の古陶芸がもつ鋭く洗練された造形を骨格として、そこに19世紀末の欧米のアール・ヌーヴォースタイル、優雅で官能的な装飾性を加えた、いわば東西の工芸様式を見事に融合させたところにある。


波山の代表作が並ぶ



第Ⅰ章 「波山」へのみちのり

 波山の故郷・茨城県下館の街は、全国有数の木綿の産地であり、江戸時代には商都として町人文化が栄えた。波山の生家は下館藩の御用商人も務める富裕町人で、父・増太郎は文人趣味、茶道の嗜みもある人だったという。
 明治22年、開校して間もない東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学、古典の学習、写生や模写、工芸技術など一連の研鑚を経て、芸術家としての基礎を築く。その後、金沢の石川県工業学校(県工)へ奉職、本格的に陶芸の世界に接近していき、デザインや窯業材料の研究、ロクロ成形や窯焼成土など、土にまみれる7年間を過ごす。
 波山はこのように、近代日本の「美術」と「工業」の両分野の最高峰に連なる環境で鍛えられ、次世代陶芸界の牽引者としての歩を進めていくことになる。


東京美術学校の卒業制作 ≪元禄美人≫ 明治27(1894)年  東京藝術大学蔵


東京美術学校時代の作品や、師・高村光雲の作品、夫婦で制作した作品などがずらり



第Ⅱ章 ジャパニーズ・アール・ヌーヴォー

 19世紀後期、ジャポニスムブームに陰りが見え、日本の陶磁器輸出は斜陽期に突入。この逆境の下、果敢に陶芸家として歩み始めた波山は、大きな賭けに出る。
 それまでの陶工の常識を破り、個人で本格的な高火度焼成の窯を東京・田端に構え、磁器形成に挑んだのである。絵付けだけでなく、素地も自らつくり、釉薬や顔料の調合も吟味した。
 この頃、波山が熱心に取り組んだ課題は、西欧で流行したアール・ヌーヴォースタイルの意匠研究と、西欧渡来の釉や顔料の実用化であった。
 しかし、新窯による焼成のリスクは大きく、そこには貧困との果てしない戦いが待っていたのだった。


陶片の中にも見出せる波山芸術



第Ⅲ章 至高の美を求めて

 天性のカラリストといっても過言ではないほど、鋭敏な感性の持ち主であった波山。彼の色彩の世界は、釉の下に絵付けする「釉下彩」(下絵)で表現されている。波山はこの「彩磁」から、さらに「葆光彩」へと表現の幅を広げていく。「葆光彩」は今や波山の代名詞となっているが、薄絹を被せたようなマット釉は、作品に侵しがたい気品を加えることとなった。
 波山の「葆光彩」の完成は、日本の磁器表現に広がりと深み、そして幽遠な美の境地をもたらした。


中央 重要文化財≪葆光彩磁珍果文花瓶≫ 大正6(1917)年  泉屋博古館東京蔵


 波山の活動を支えていたのは、「量産品ではない、最高の一点もの」を求めていた、皇室や財界の大物たちであったという。現代では、もはや量産品の様になってしまったきらいのある作品が増えているのではと感じる筆者からすると、色々と考えさせられるものがあった。
 最高の作品を作るための試行錯誤の途中で割られ、作品になり損ねた破片たち。その中には、今の私たちが忘れてしまったものも、詰まっているのかも知れない。

この展覧会は、波山の故郷である筑西市のしもだて美術館・板谷波山記念館・廣澤美術館を皮切りに、石川県立美術館、泉屋博古館(京都)、泉屋博古館東京、茨城県陶芸美術館と巡回する。




展覧会概要

特別展 生誕150年記念 板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯―

会期:2022年11月3日(木・祝)~12月18日(日)
開館時間:11:00~18:00
※金曜日は19:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
入館料:一般1,200円(1,000円)、高大生800円(700円)、中学生以下無料
会場:泉屋博古館東京(東京都港区六本木1-5-1)


会期中のイベント
特別対談
「板谷波山を語る―麗しき作品とその生涯」
11月5日(土) 14:00~15:00 (要事前申込)
[講師] 板谷駿一氏 (公益財団法人波山先生記念会理事長)
   荒川正明氏 (本展監修者・学習院大学教授)

講演会
「明治のデザインと板谷波山」
11月27日(日) 14:00~15:00 (要事前申込)
[講師] 森谷美保氏 (美術史家)

「陶磁器の修復<アートWithシリーズ>」
12月2日(金) 17:30~18:30 (要事前申込)
[講師] 繭山浩司氏 (美術古陶磁復元師)
[聴講料] 500円

学芸員によるスライドトーク
「コレクター・住友春翠と板谷波山」
11月10日(木)、12日(土)、24日(木)、12月3日(土)
各14:00~15:00 (予約不要・当日整理券配布)
[講師] 森下愛子 (泉屋博古館東京学芸員)

展覧会概要、イベントについて、詳しくは泉屋博古館東京公式HPをご覧ください。
https://sen-oku.or.jp/tokyo/


※画像はプレス向け内覧会にて撮影したものです。無断転載は出来ません。




執筆者プロフィール
渡邊亜萌(美術家)
2016年明治大学文学部卒業、2018-2019年度美学校『中ザワヒデキ文献研究』正規受講。2020年個展『強いAI』、2021年個展『人間らしさを守る人間の会』など。レビューとレポートでも不定期に記事を掲載。


レビューとレポート