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豊田市民芸館開館40周年記念・河井寬次郎記念館開館50周年記念「河井寬次郎展 -寬次郎の魅力は何ですか-」 レポート

愛知県の豊田市民芸館では同館の40周年と、京都にある河井寬次郎記念館の50周年を記念した展覧会「河井寬次郎展 -寬次郎の魅力は何ですか-」を開催している。2024年3月10日まで。


日本を代表する陶芸家・河井寬次郎(1890-1966)は、柳宗悦、濱田庄司とともに日用雑器の美へ関心を深め、「民藝」の新語を作り、民藝運動を推進しました。本展では当館開館40周年事業の一環として、開館50周年を迎えた京都の河井寬次郎記念館の所蔵品より、陶芸家・河井寬次郎の創作活動の全貌を紹介します。
河井の陶業は、東洋陶磁に倣った初期作品、民藝運動を牽引する中での実用を意識した中期作品、独創的な造形美へと変化した後期作品に大別され、いずれも技巧性・独創性において高く評価されています。また、陶業のみにおさまらず、その表現は木彫や書、デザイン分野など多岐にわたります。
今回は河井寬次郎の陶業の仕事や、昭和・戦後期に作られた木彫像や木彫面、真鍮のキセル、河井の人間性・精神性を表現した書など、3点の初公開作品もあわせて約200点展観し、多くの人々を惹きつけてやまない「表現者・河井寬次郎」の魅力にアプローチします。

PRより



展示は第1民芸館から始まる。日本民藝館が改装される際に大広間と館長室を譲り受けたことをきっかけに開館した建物。




第1民芸館の大広間に河井寬次郎の作品が並ぶ。
本展について聞くと、河井寬次郎は実力もさることながら華やかな作家で、色彩も含めて人気のある作家であり、取り上げるべき作家だが、優品とえば京都国立近代美術館の川勝コレクションが有名であるものの陶芸にとどまらない多面的な表現を紹介するため、ちょうどお互いに記念すべき年であったこともあり、河井寬次郎記念館(以下、記念館)と組み、個人蔵作品も借りて、その多面性の全容を展示をしたのだそうだ。
陶芸だけでも初期の伝統を学ぶ端正な表現から民藝運動へ邁進することで生まれたもの、そして用途がなくオブジェと言えるようなものまであり、更に書や、そして陶芸とは素材も違えば制作方法も異なる木彫まで、多様な作品を作り続けていた。それが展示で一望できるようなインスタレーションとなっている。
記念館へ何度か訪ねていたので優品を所有していることは分かっていたが、これだけのものを持っていたかと圧倒された。



「いのちの窓」より(語句14種・複製) 1948年 河井寬次郎記念館蔵

河井は書にも力を入れており、多くの作品が残っている。
戦中は焼き物を作ることが出来ず書に没頭していたらしい。



呉洲筒描陶板「火誓浄新」 1957年 個人蔵

陶板作品。化粧土を絞り出すようにして文字を書いているそうだ。
ちなみに今回の展示にあたり什器へ使用されていた布を葛布へ新調したとのこと。葛布は日本民藝館では柳宗悦の強い意志で壁紙として使われている布であり、たしかに河井の作品によく合っていた。



呉洲陶彫像 1962年 河井寬次郎記念館蔵

フライヤーにも掲載されている作品。
人差し指の先に蓮の花らしきものが載っている。河井作品だとすぐわかる造形で、もはやオブジェといったほうが良いだろう。



木彫作品。唐突すぎる表現展開で驚く


木彫像 1958年 河井寬次郎記念館蔵




灰釉陶彫像 1962年 河井寬次郎記念館蔵 後ろから
灰釉陶彫像 1962年 河井寬次郎記念館蔵 横から
灰釉陶彫像 1962年 河井寬次郎記念館蔵 正面



中国や朝鮮の陶磁器から学んだ端正な作品から、一目見て河井寬次郎だと分かる戦後の陶磁器まで、一つの什器で一望できる。塗りへ前衛性をもたせつつも、用途を想像させる造形は鑑賞者にとって作品が腑に落ちやすいそうだ。



陶芸と書、木彫作品が一望できる。優品ばかり


呉洲筒描扁壺 1953年 個人蔵
白釉筒描双手文扁壺「東向西進」 1955年 個人蔵


木彫像 1950年 河井寬次郎記念館蔵
木彫像 1958年 河井寬次郎記念館蔵


拓本「仕事」 1950年 河井寬次郎記念館蔵



孔雀緑黒花文耳付壺 1922年 個人蔵
呉洲丸花文蓋付壺 1941年 河井寬次郎記念館蔵

第1民芸館玄関の展示。中国や朝鮮の陶磁器から学び、その後柳宗悦と共に民藝運動へ邁進し、戦後、河井らしい固有の作品を作るという流れが一望できる。


脇には東京高等工業学校窯業学科で学んだ際のノートや、発色を確認するテストピースが展示されていた。真面目な制作者であり研究者でもあった河井の真摯な姿勢がみえ、彼が科学者の頭と詩人の心をもった作家と言われるのも納得であった。ところで、ノートはあまりに綺麗に書かれすぎているので、もしかしたら後から清書を行い丁寧に勉強成果を残して自分のものにしたのではないかと推測がされているようだ。



第2民芸館




河井寬次郎旧蔵の木喰仏と円空仏。



辰砂陶筥 1942年 河井寬次郎記念館蔵


キセル


酒器


珈琲カップとソーサーまでも


第2会場も引き続き迫力のある大きな作品が多いその一方で小物を多く紹介している。小さな蓋付きの箱や酒器のおちょこなどは大きな作品とは違い手に持って愛でたくなるものだ。しかもどれも優品で素晴らしい。珈琲カップとソーサーまでも作っていたというのは美を生活の中に見いだす民藝らしいというか、作家と工人を行き来しているようにも見えた。



本展では美術家の中村裕太による「眼で聴き、耳で視る|中村裕太が手さぐる河井寬次郎」として河井の仕事にみられる造形感覚をその暮しぶりからひも解いていく展示が組み入れられている。2022年に京都国立近代美術館で開催された「感覚をひらく」事業のプログラムを一部再構成し新視点を入れたもの。



松下幸之助による文化勲章推薦を辞退したがお土産のトランジスタラジオに感激して枕元に置いていたそう。



柳宗悦が河井寬次郎邸を訪ねた際に柳が座ったチェア。
写真にはそこへ座る柳が写っている。チェアは記念館に残っていたそうだ。河井の座っているチェアは残念ながら見つからなかったとのこと。


多面性を持った河井に対して、料理人や芸能人そして美術家などさまざまな人の心に河井が引っかかってきたそうで、言及も多い。そのため本展ではタイトルを作家の著作から引用することはせず、観る人が感じる河井の魅力をどう捕まえることが出来るかという意味合いをこめてつけたのだそうだ。

本展図録が会期中に出される予定で、美術家の梅津庸一による書き下ろしテキスト「河井寬次郎の固有性について」も掲載される。





豊田市民芸館開館 40 周年記念・河井寬次郎記念館開館 50周年記念「河井寬次郎展 -寬次郎の魅力は何ですか-」

場所:豊田市民芸館
会期:2023年12月16日(土) 〜 2024年03月10日(日)
https://www.mingeikan.toyota.aichi.jp/exhibitions/

イベント
詳細はWEBにて
■トークショー「河井寬次郎に聴き、柳宗悦に視る」(終了)
12月16日(土)午後2時-3時半
講師:軸原ヨウスケ(デザイナー)・中村裕太(出品作家)

■ワークショップ「眼で聴き、耳で視る」
①12月16日(土)午前10時半-12時(終了)
②3月2日(土)午後2時-3時半
講師:中村裕太(出品作家)

■記念講演会「祖父・河井寬次郎」
1月20日(土)午後2時-3時半
定員:先着50名(事前申込み不要)
講師:鷺珠江氏(河井寬次郎記念館学芸員)

■「河井寬次郎の器でお茶を楽しむ」(申込受付終了)
1月21日(日)午前10時-11時半/午後1時半-3時
講師:鷺珠江氏(河井寬次郎記念館学芸員)

■ギャラリートーク(豊田市民芸館学芸員による展示解説)
2月17日(土)午後2時から(1時間程度)

レビューとレポート