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三毛あんりインタビュー -【連載】家船参加作家 / CLIP.12- 聞き手=KOURYOU


作品「家船」は多数の作家と地元住民、様々な協力者によって共同制作されている。この作品への参加作家が個人では普段どのような活動や制作をしているのか、レビューとレポート3月号「家船特集」を皮切りに、各人へのインタビュー記事を連載形式で掲載する。
今回は三毛あんりへインタビューを行った。

三毛プロフィール

三毛あんり(みけ あんり)
画家 1990年東京生まれ
2012年 多摩美術大学造形学部造形学科日本画専攻卒業
2014年 多摩美術大学大学院修士課程絵画専攻日本画研究領域修了


(聞き手=KOURYOU)
ー三毛さんの今までの活動や作品についてご紹介いただけますか?

三毛:作品に関しては、「日本画」を描くために「自画像」という手段をとって制作をしています。
本格的に絵画を描き始めたのは大学に入ってからです。進路について考えた時に、なぜか「日本画学科に入らねばならない」と思い、なんとか多摩美の夜間部に滑り込みました。
しかし制作はなかなか思うように行かず、学内では他の学生の制作風景を眺めたりして、遊んで過ごしていました。大学の所在地が上野毛で、都心とのアクセスがよかったこともあり、面白そうな展示やイベントがあれば、できるだけみに行くようにしていました。
最初に大学の外で展示を行ったのは、同大学に通っていた杉村悠佳さん企画の「立ち会うわたし 立ち会われるわたし」です。同大学内の作家9名のグループ展で、期間中にトークイベントなども開催しました。
その際に展示した作品が、搬出時にある事情で破損してしまい、反省すると同時にかなり落ち込んだのですが、その2年後、カオス*ラウンジの黒瀬陽平さん企画の「キャラクラッシュ!」に、破損した自画像として出品することができました。
まさに昇華!という感じで、この経験が、私にとって展示するということに於けるある種の原体験のようなものになっている気がします。
「キャラクラッシュ!」の前には、藤城嘘くん主催のビリケンギャラリーでの「カオス*ラウンジⅤ」に参加しました。その後も大人数の展示の際には、他ではなかなか出しづらい実験的な作品などを出品しています。
大学院卒業後は、不定期ですが、2~3年に1~2度ほどのペースで個展を開催しております。


ー「日本画を描くために」と仰いましたが、三毛さんにとっての日本画はどのようなものなのでしょうか。

三毛:日本画とは明治期に発生した芸術運動で、その定義については諸説ありますが、私としては日本画は国家の自画像として成立し得るものだと考えます。
様々な事柄が複雑化している今、クリティカルな国家の自画像たる日本画を描くということは非常に困難です。しかし先に挙げた関係を反転させることによって、つまり自画像を描くという建前を以って描けば、逆説的に日本画が描けるのではないかと想定しています。
内容としては、まず内的(domestic)なものというのが必須です。更に永遠(eternal)で崇高(noble)なものという要素も個人的には重要だと考えているのですが、そちらの方だけを向いていると悍ましい偏りが生まれそうなので、できるだけ慎重に接するようにしています。


ー三毛さんの自画像作品には色んなシリーズがありますが、それぞれの制作経緯や、意識している事など教えていただけますか?

三毛:制作を続ける上でのシステムとして、シリーズ分けをしています。
自分の作品テーマを整理できる。継続して同じテーマを扱うことができる。別シリーズとすれば前作と矛盾するようなテーマを扱うことができる。などの利点があります。


ー最初に自画像を制作されたのは、「みてる人 Imaginary portrait」(図1)のシリーズですか?

三毛:そうですね。最初はとにかく人物ーー特に顔ーーの画を描いており、後から便宜的に「みてる人」というタイトルでシリーズ化しました。顔の画を描くための方便のようなものです。

三毛図1

図1 みてる人 Imaginary portrait
鏡で私が確認することのできない私の像、私が想像する私の自画像。撮影=三毛あんり


ー三毛さんの自画像は顔(特に目や毛)に強いこだわりを感じます。三毛さんは女性ですが、自画像の体は男性的であったり、陶器であったり、物語の登場人物であったりして、入れ替え可能に見えます。

三毛:「みられること」と「みること」への恐怖が制作の原動力であると言えるところもあるので、目は非常に重要です。毛は、自分に属するものでありながら外的な存在のようにも感じられて、私にとっては目以上に恐怖の象徴と思えるので、これも重要です。
顔に対して、体への興味が薄く、可能であれば、搾取にならないやり方で自分以外の体を描きたいと考えています。

三毛図2

図2 タイムレスシティの人 Citizen of Timeless City
近未来SF世界における想像上の自画像。身体感覚が変化し、装飾としての金継ぎを施された体を持つ。撮影=三毛あんり


三毛図3

図3 ず~っとピンクのままの花びら Eternal pink petal
神話や文学作品における登場人物を自画像として描く。撮影=三毛あんり

三毛図4

図4 体 Body
身動きが取れず、思い通りにならない体。破壊可能な器物としての自画像。撮影=三毛あんり


ー顔の造形自体には作品ごとの変化があまりないように感じます。どのようにして今の形になったのですか?
三毛:今の造形に安定するまでに、もっと少女漫画的なデフォルメを試していたこともありました。好きな絵画や漫画やアニメにおけるデフォルメの、よいと思うところを摘んだ結果、このような造形になっています。とは言え、その時に流行っているメイクやファッションに影響されて、実際には作品ごとにかなりのブレがあります。


ー最近はプリクラ作品なども制作されていますよね。

三毛:夢プリクラ(selfie with ghost) 」(図5)シリーズの制作を始めたのは、10年ほど前の大学3年生くらいの頃からです。 一人で撮ったプリクラにキャラクターを描き加えることで、過去や関係性を捏造するというものです。写真やコミュニケーションへの違和感を作品に落とし込みました。
selfieという言葉が流行りだす少し前の作品で、一人でプリクラ機に入るというのはかなり勇気のいる行動だったのですが、それがちょうどよく制作時の負荷になっていたように思います。ある種の欲望をもって4~5年ほど継続して連作していましたが、2014年にリズムゲーム「プリパラ」を集中してプレイするようになってから、制作意欲が薄れていきました。もっと手軽にこの欲望を発散する手段を見つけて、単なる消費者になったわけですが、それと同時に、同じような欲望をもった人がこんなにたくさんいたものかと改めて認識しました。
現在は、夢プリクラをもっとインスタントにした形態で 「ポスターや等身大パネルと写真を撮り、amebloにアップする 」(図6)のようなことを継続的に行なっています。

三毛図5

図5 夢プリクラ (プリントシール機にて自動撮影)

三毛図6_変更

図6 ameblo「東京都私」より 撮影=三毛あんり


ー女木島での「家船」制作では、途中から助っ人として作業を助けていただきました。その後、芸術動画ヤミ市の「家船」ブースでドローイングを出して下さいましたが(図7)、こちらの作品について話していただけますか?

三毛:ヤミ市に出品したドローイングは瀬戸内国際芸術祭の「家船」を訪れた時の印象を描いたものです。家の二階に空けられた丸い穴と、家に取り付けられた舳先に立て掛けられた梯子を使って、正規とは別のルートで「家船」を探索する想像をしました。
「家船」の大掛かりな制作のうちのほんの少しの作業を手伝わせていただいたとはいえ、実際に現地を訪れた時は完全にお客様気分だったのですが、足元を見ると自分の名前が記された墓標のようなものが立っていて、かなり驚きました。
参加、協力した人々の碑を立てる行為はKOURYOUさんの作家性を後ろから引き止めようとする枷のようにみえて、興味深いです。

三毛図7j

図7 令和元年 瀬戸芸の家船に行ったとき 2019年 撮影=三毛あんり


ー別ルートの想像をしてくれて嬉しいです。ドローイングを見ると三毛さんの自画像が目として開けられた屋根裏の穴から「家船」に入っていきそうな場面に見えます。

三毛:まさにそのようなイメージで描きました。「家船」の屋根裏部屋がとても気に入ったので、占拠したいくらいの気持ちになりました。想像上であっても、あの屋根裏部屋を自分のものにするためには、(係の人から入場手続きを受けて入る)正規のルートとは異なる、オリジナルのルートが必要で、その出入口をあの穴としました。あの穴には凄まじい緊張感があり、内から外を覗くと、個人的で神秘的な時間が存在するように感じられました。例えるなら、7シーズンくらいある歴史物のドラマの最終話で突然異次元へ繋がる穴が出てきて、主人公がその穴の中に入ると、パラレルワールドに移動して、今まで苦労して乗り越えてきた歴史が全く違うものに変容してる…くらいの奇妙さを感じました。「家船」ってそういうものですか?


ー私は、三毛さんがご自身の作品で「目」に強いこだわりを持っているので、あの穴が気になったのかなと思ったのですが、屋根裏の空間を気に入られたからだったのですね。
私の中で「家船」は、絵を描く時のキャンバスのようなメディアに近い感覚です。でもキャンバスのようにじっとしててくれない、みんなが絵やアイデアを乗せると「ごそごそそ…」と動いて回路を形成する生き物のようなイメージです。

三毛:なるほど。私は、画がすきで、というのも世界がみえる範囲に収まってコントロールされている状態に安心するので、KOURYOUさんの「家船」やクリックスピリットのような、色んなところに扉があって、その先が憩いの場だったり、ただの壁だったり、底なしの穴だったり、兎に角様々な可能性が開かれている状態は、恐ろしく思うと同時にかなり憧れます。

TOP画像「センシュアルストーン3」2020年

「レビューとレポート」 第16号 2020年9月