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スペイン回想記2 チョコラテバロール

翌朝パブロが家をでる。"¡Hasta luego!" (アスタルエゴ)と元気のいい声が聞こえて戸が閉まる。慌てて"'¡Hasta luego!"と叫ぶ。"Hasta luego." はまたねという意味でそれこそスペイン語学習をはじめてすぐに覚える言葉だけれど、人生ではじめてこの言葉を使った瞬間だった。本場の"Hasta luego"は「アスタルエゴ」というよりも「アッタルエゴ」に近い。挨拶だけでも発見があって面白い。「またね」とか「さよなら」よりも"See you later!" といったニュアンスのようだ。たしかに意味を考えたらその通りなのだけどドラマにはあまり出て来ないために考えてみるきっかけもなかった。こんな小さな発見に嬉しくなる。

語学学校に行くかその分お金をすべて使って旅行するかギリギリまで迷っていたので、事前に申し込んでいなかった。行ってみて雰囲気が合わなかったらどうしようという不安もあったから、マドリードについてから自分の足で訪ねてみて決めることにした。近くの語学学校を検索してみるとピソのある Saintz de Baranda から歩いて15分くらいのところにAIL MADRIDという語学学校があるとわかった。語学学校があるのはオドネル通りで坂をずっと上っていけば通りに出られるようだった。

ピソを出て下に降りるとポーターのアレハンドロがいた。"¡Buenos días!"に続いて覚えたての"¡Hasta luego!"を使ってみる。アレハンドロは"¡Buen día!"と言ってくれた。これは初めて聞く挨拶だ。明日からこれを使ってみよう。"¡Buen día!"の明るくて元気のいい響きがとても気に入った。

オドネル通りに向かう途中、ずっと行ってみたかったチョコラテリアのバロールがあったので立ち寄ってみることにした。朝食を食べにここに来るのが日課なのだろうと思われる地元民でにぎわっていた。新聞片手にチュロスをほおばるお兄さんや、チョコラテが冷めそうな勢い手おしゃべりに夢中な仲良しマダム二人組、ランニング帰りにチョコラテコンチュロスの持ち帰りをカウンターにもたれて待っているお姉さん。先に注文するのか、座っていれば来てくれるのかわからない。とりあえずウェイトレスに話しかけると「好きなところに座って。注文は後で取りに行くわ。」と言われたので空いていた窓際の席に座った。チョコラテコンチュロスを頼むと割とすぐに出てきた。カップに入ったチョコレートの艶となめらかさは美しいほどだった。想像していたよりも甘さは控えめで、普通に飲むホットチョコレートよりも甘くない。チュロスもあたたかい。パクパク食べ終え、口の中のチョコレートを流すのに何か飲みたくなった。周りを見回すとみんなレジ横のセルフサービスの水を取ってきていた。水を取りに行くのはお店に入って最初にすることのようだった。水を取ってこようか考えているうちにウェイトレスが飲み物はいるか聞いてくれたので、Café con leche (カフェラテ)を頼んだ。普段はブラックコーヒーを飲むけれど、その日はせっかくだから "Café con leche" と言ってみたかった。3分の1ほどコーヒーが注がれたカップと牛乳の入った二つの大きなポットをウェイトレスがもってきた。冷たい牛乳かあたたかい牛乳か選べるらしい。あたたかい牛乳をお願いするとコーヒーの入ったカップにたっぷり牛乳を注いでくれた。このなんでもないカフェオレがとてもおいしくて感激した。

血糖値が急激に上がっているのを感じながら会計を済ませる。店を出るとき大きな声でアッタルエゴと言ってみる。スペイン人になった気分でワクワクする。これからの滞在への期待で胸を膨らませながら足取り軽くオドネル通りに向かって再び歩き始めた。

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