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博士課程で得た専門知識以外のもの(2)

以前書いた

の続きです。

他人の説得方法を学べた

アカデミアの世界では、自分が想像していたよりはるかに
他人を説得する機会が多いです。
自分のプロジェクトがいかに価値あるものかを伝えることで、
評価や予算を獲得したり、共同研究者を引っ張ってきたりするからです。

  • 論文を書く

  • 学会発表する

  • 研究目的や計画などをまとめて、研究資金を調達する

は研究者が日常的に行っていることです。
これらの究極の目的は、相手を説得することだと考えています。
自分の成果やプロジェクトがいかに優れているかを分かってもらい、
最終的には高い評価を得て専門知識の提供や予算の支援など
具体的な行動に移してもらうことが重要です。

わたしは他人を説得する上で、相手をいかに分かった気にさせるか
が大切であると考えています。
分からせるのではなく、分かった「気にさせる」というのが味噌です。

紙面や発表時間にはいつでも限度があります。
その限られた容量内で数か月から数年かけてやってきた仕事を
全て理解してもらうのは無理があります。
自分の研究について伝える相手は似たようなことをやっている人の場合が
多いですが、それでも全く同じではありません。
したがって、例え相手が専門家であっても、1本の論文や
数枚にまとめた研究計画書、数分間のプレゼンで相手に自分と同じ程度の
理解を求めることはあまりにわがままだと思います。

とは言っても、人間自分が理解できないことには価値が感じられない
のも事実でしょう。
すなわち、分かった気にさせることができて初めて、説得のための
土俵に上がれるのだと考えています。

わたしはまだ修行中の身で、客観的に説得に成功したと言えることには、
学会で口頭発表をした際に頂いた学生発表賞、奨学金を申請するための
審査会で行ったプレゼン、日本学術振興会の特別研究員採用、と
まだまだですが、その過程で学んだ現時点で重要だと考えていることを
まとめてみたいと思います。

Take-home message を作る

Take-home message なんてちょっと気取った表現を使ってみましたが(笑)
要は、情報量を極限まで絞り込んで、これだけは伝えたい!という点に
フォーカスしてそれを中心に構成する、ということです。

プレゼン発表初心者の時は、自分がやったことや得られた結果を
細かく入れ込んだ盛り沢山なプレゼンを準備していました。
ただ聴衆になって他人の発表を聞いてみると、自分は細部に
さほど注意を払って聞いていないことに気づきました。
大抵の学会は休憩を挟みつつ朝から晩まで行われるので、
みんな基本疲れきっていて、ずっと集中してはいられません。
(それはわたしだけじゃないと信じています!笑)
そんな聴衆を相手にして話す場合は、
「色々言ったけど、とにかくこれだけは家に持ち帰ってね!」
という情報が明確に伝えられたら十分だと思います。
興味を持った人は質問してくれたり、個別に話しかけてくれる
場合もありますしね。

Take-home message を作るには、何が重要で何が些末なものか
手持ちの情報の中で濃淡をつける必要があるため、
その分野に入りたての時は難しいかも知れません。
したがって、先行研究の調査(一般企業だと市場調査とかに
当たるのでしょうか)をすることが必須です。

具体に落とし込む

物理学者は多分、みんな具体的なものが大好きです。
具体的なことは実現可能性や妥当性の指標になるからだと思います。

わたしは日本学術振興会の特別研究員に2度応募しましたが、
1度目は不採用でした。特別研究員とは

我が国の優れた若手研究者に対して、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図る制度

https://www.jsps.go.jp/j-pd/#:~:text=%E7%89%B9%E5%88%A5%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%93%A1%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AF%E3%80%81%E6%88%91%E3%81%8C%E5%9B%BD,%E7%A2%BA%E4%BF%9D%E3%82%92%E5%9B%B3%E3%82%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

だそうです。
(別に自分が優れた若手研究者だと言いたい訳じゃありません!)
不採用だった1度目と、採用を頂いた2度目の申請において
最も異なる点が、この具体性にあったと考えています。
応募するためには、自分のやりたい研究テーマについて説明した資料を
作成する必要があります。
その研究がどんなもので、なぜ調べる必要があるのか、
どうやって進めていくのか、ということを盛り込んだものです。
2度目の応募の際、わたしはひたすら具体性に気を配って
資料を作成しました。

どの点が評価されて採用を頂いたのか本当のところは分かりません。
少なくとも具体的に説明したことで、わたしがその分野について
どの程度理解していて、やろうとしていることがどの程度実現可能か
ということを、1度目よりは上手にアピールできたと思います。

具体的でない情報は、評価が難しいという問題があります。
例えば、「AとBは相関する」と言われても、どの程度相関するかは
評価のしようがないので、「ホントかなあ?」と思ってそれで終わりです。
代わりに「AとBは0.8の相関がある」と伝えることで、
例えば、「先行研究では0.6の相関だったから、より強い相関が
見られたんだな。なんでだろう?」という感じでより建設的な議論に
持ち込むことができます。

相手の脳みそに無駄な負荷をかけないようにする

相手に内容を分かってもらうためには、相手の脳みそを
内容の理解のためだけに使ってもらうことが理想です。
つまり、極力無駄な負荷を避ける工夫をすることで効果的に内容を
伝えることができると思います。

その為に最も重要なことは、読み手や聴衆を想定し、相手に寄り添った形を意識して準備することだと考えています。
例えば前述の特別研究員について述べる際、想定する読者が
博士課程の学生さんなら「DC1は不採用でしたが、DC2では
採用されました」と書けば済みます。
ただ、この記事はテーマが博士課程で学んだ専門知識以外のことですので
博士課程の学生さん以外の方にも楽しんで頂きたいと考えています。
したがって、「DC1は不採用でしたが、DC2では採用されました」
と書くと、多くの方が「何それ?」となって読むのを止めてしまい、
わたしが伝えたい相手には届かないでしょう。

このように、同じ内容について伝える時でも相手によって
伝え方は変わってきます。
当然のように聞こえるかも知れませんが、進学したての頃わたしは
研究者の方々の中でも、共有している前提知識や、興味の対象に
違いがあることをさほど意識していませんでした。
聞きなじみのない表現や専門用語を用いると、読み手や聴衆の
理解の流れを妨げてしまいます。
どんな聴衆に向かってプレゼンするか、研究計画書を読むのは誰か、
ということを意識することで格段に伝わりやすい資料を作れると思います。

また、文書やスライドの書式もかなり重要だと考えています。
既存のフォーマットに従うことで、今何について述べているのか、
次に何を説明するのか、ということを相手は無理なく理解できます。
このため、わたしは可能な限りフォーマットに従って説明するよう
心がけています。
またわたしは、視覚的に見にくいもの、曖昧な表記などは
相手の集中力を削ぐ原因になると考えているため、できるだけ
避けるようにしています。
文字や余白を見やすいサイズに設定する、グラフに軸の名前と
単位を明記するなど、ひとつひとつはちょっとしたことですが、
こういった配慮を重ねることで、相手にスムーズに理解して
もらえるような分かりやすい表現ができると信じています。


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