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「男はつらいよ」巡礼 #2

映画「男はつらいよ」レビュー集。寅さんマラソン、というよりハイキング、いや巡礼だな。備忘録として記事を書いていけたらと思う。結願できますかどうか。今回は第二作目「続 男はつらいよ」。寅さんが生みの母、菊(ミヤコ蝶々)と再会する一編だが見る前に想像していたストーリーとはだいぶ印象が違った。

第二作「続 男はつらいよ」 1969年11月公開 監督 山田洋次 脚本 山田洋次 小林俊一 宮崎晃

寅さんが中学生時代の恩師父娘と再会、旧交を温め直す流れの中で寅さんの生みの母との再会と恩師父娘の死別が描かれる一編。恩師の坪内散歩を東野英治郎、その娘、坪内夏子、今作のマドンナを佐藤オリエがドラマ版に引き続き演じている(ただし、ドラマ版の名前は冬子。坪内冬子の名前は映画第一作のマドンナ、御前様の娘の名前に使ってしまったため、「夏子」になったのだと思う)。ドラマ版を映画一作目に落とし込む際、やむなく削ぎ落としたストーリーを語りなおし映画に昇華させたのがこの作品ではないかと思う。少し前にNHKで放送していた、家出する前の寅次郎を描くドラマ「少年寅次郎」にも散歩先生、夏子が登場しており、かなり入り込みやすかった。

印象が違ったというのは生みの母親との再会の物語部分だ。母、お菊との再会シーンは渥美清、ミヤコ蝶々による名シーンとして「寅さんの名場面集」みたいな放送か何かで見て知ってはいたが、この映画のメインストーリーがこの再会物語だと思っていた。実際はこちらがサブストーリーでメインストーリーは夏子の結婚と父との死別に寅さんが大きく関わることになるという物語だった。寅さんが坪内家で相伴を受けている最中に胃腸炎になり病院に入院することになり、その縁で夏子は寅さんの主治医だった医師、藤村(山崎努!若い!シブイ!カッコイイ!)と出会い結婚に至る。散歩先生が亡くなった際には寅さんが葬儀を取り仕切る。そして、ラストシーンで新婚旅行先の京都でお菊と歩く寅さんを見かけて父の死を実感する。という感じ。別に寅さんがそれをサポートしているというわけでなくて夏子に惚れているからこその行動で、裏を返すと夏子の転機に関わっているという展開がいい。寅とお菊のシーンは2シーンのみ(1、初対面が悲しい物別れになるシーン。2、ラストシーン、文句を言い合いながらも母子並んで歩く、和解があったことを感じさせるシーン)で、間にあっただろう和解に至るシーンなどは描かれない。唐突とも感じる展開であるが夏子視点の物語と考えれば別段過不足がないように思う。ラストの夏子のモノローグがそれを際立たせる。

10作目あたりから30作目あたりを飛び飛びに見ている身としては一作目よりも「これが原型か」というような印象が強い。寅さんととらやの面々の距離感、空気感がおなじみの感じに近い感じがする。オープニングのアバンタイトルで想像の母親と再開する夢シーンから始まるのもそう思う一つだ。

逆にこれ以降の作品と違うのがOP後、最初に柴又に寅さんが帰ってきたときの面々の反応。以降の作品ではしばらく顔を出さなかった寅さんが久々に帰ってきたという反応をするのだが、二作目だけは帰らぬと思っていた寅さんが帰ってきた、という反応をする。まだ「そういえばそろそろ帰ってくるんじゃねぇか?」みたいなルーチンになっていないのだ。

寅さんが大きな子供のように描かれる感じも徐々に無くなっていくように思う。京都で生みの親に会い冷たくされた話=誰に話しても鉄板で同情してもらえる話を柴又で方々に延々と聞かせる流れや、散歩先生が亡くなったのをただただ悲しんでいるところを御前様に夏子が泣かずにきちんとしているのにお前はなんだと言われてパッと気持ちを切り替えて葬式を仕切る(そういう仕切りが仕事柄か上手い感じなのが良い)その切り替わり方も成人男性というよりは子供のそれで一作目に引き続きフーテンとして生きてきた男のバックグラウンドを感じる。

残念というか、期待と違ったのがさくらの出番だ。少ない。少ないぞ。第一作でマドンナを差し置き、ヒロイン的立場であり、ビジュアル的にも輝いていたさくら。前作とまでは行かないまでもさくらは大きく扱われると思っていたがおそらく意図的に服装も落ち着き、登場シーンも少ない。構成上分からなくもないが、ええいっもっとさくらを映せ、もっと華やかに!と思わずにはいられない。そんな中、印象に残るシーンは中盤、焼肉屋で揉めて警察に厄介になった寅さん(と、ノボル)をさくらが身元引き受けに来るシーン。好きなシーンなので以下に詳細。

舎弟、ノボルと再会。馴染みではない焼肉屋で再会を喜ぶも会計の段になって身銭がない。ツケといてくれという寅さんに対して焼肉屋の主人は無銭飲食と騒ぎ立て、寅さんが軽く小突くいたところを大袈裟に倒れ殴られたと警察を呼ぶ。無銭飲食やヤクザものに日常的に苦労しているが故に過剰反応を示す焼肉屋の主人のリアリティがいい。

警察署、身元引き受けに来たさくらの前に連れてこられる寅さんとノボル。刑事「おい、旦那。大した美人の妹さんがいるじゃないか」寅「へへへ…俺に似てんだよ。なぁ、さくら」刑事「(書類を見て)ああ、これで結構。お前(ノボル)は帰っていいぞ」(寅さんも帰ろうとする)刑事「旦那はダメだよ!」(中略)刑事「本当に何もしなかったって言うのか?本当に?」寅「当たりめぇじゃねえスか、あんな…はなっから無銭飲食するつもりであんなことできるわけねぇじゃねえかよ!」さくら「お兄ちゃん、お願い。おとなしくしてよ。ねっ。おとなしくしてたら不起訴になるかもわかんないんだからね」(中略)寅「うるさいっつってんだよ!」さくら「お兄ちゃん!」寅「畜生、バカ野郎!」(さくら涙)刑事「見ろ、かわいい妹、泣かせてよ」(うなだれる寅さん)

周りの善意や寅さんの性格が分かった上で許されている寅さんの横暴が、それが存在しない場所では大きなトラブルになるという展開で、バツの悪さ、いたたまれなさがすごい。これをきっかけに寅さんは再び旅に出るのだが、そりゃぁ旅に出たくもなるよと思わせるシーンで素晴らしい。


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