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好きな人って辞書みたいだ
好きな人ができる。
すると、好きな人の好きな人を知りたくなる。
好きな人は、どうやら作家の小川洋子さんが好きらしい。
それを聞いて、お勧めしてくれた「密やかな結晶」を僕は読んでみた。
素晴らしかった。好きな人の好きな作家さんって素晴らしい。
僕の好きな作家リストに「小川洋子」が追加された。
好きな人に「他に好きな人はいる?」と聞いてみた。
好きな人は「恋人」と答えた。
好きな人が付き合う人ってどんな人なのだろう。
「どんな人?」と聞いてみた。
「月と電線と自動販売機が好きな人」と答えた。
「月と電線と自動販売機」と僕はつぶやいた。
僕はよく分からなかったので、好きな人の恋人に会ってみたくなった。
後日、好きな人は僕に恋人を紹介してくれた。
好きな人の恋人は深くお辞儀をする人だった。
あんまり喋らないけど、笑った時の顔が優しかった。
そして、青色のシャツがよく似合っていた。
僕は好きな人の恋人のことが好きになった。
好きな人の恋人って素晴らしい。
僕の好きな人リストに「好きな人の恋人」が追加された。
その日の夜、空を見上げたら月が綺麗だった。月を眺めていたら、好きな人の恋人の笑った顔が浮かんできた。
月って素晴らしい。
ずっと眺めていると、夜が優しく僕を包んでくれるような気がしてくる。
ある夏の深夜、僕は自動販売機でコーラを買った。
自動販売機は、ボタンを押すと律儀に飲み物を渡してくれた。自動販売機は、こんな夜中にずっと夜道を光で照らしてくれている。
自動販売機って素晴らしい。
僕らの夜を密やかに見守っている。
ある秋の朝、平行な5本の電線にいくつかの小鳥が止まっていた。
まるで五線譜に音符が書かれているようだった。
電線って素晴らしい。
鳥たちと一緒に、誰も聴くことのできない音楽を静かに奏でている。
ある冬の昼下がり、街で偶然好きな人と出会った。
僕は「月と電線と自動販売機っていいね」と伝えた。
好きな人は「私もそう思う」と答えた。
それだけ話して、僕と好きな人は解散した。
好きな人って辞書みたいだ。
分からない言葉があったときに辞書を引く。すると他の分からない言葉に出会う。そしてその言葉を辞書で引く。他の分からない言葉に出会う。言葉が連鎖していく。辞書は、僕を言葉の世界に連れていく。言葉の深度と解像度が上がっていくと、豊かさが増えていく。
好きな人は、僕の世界に豊かさを与えてくれる。
好きな人って素晴らしい。
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