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映画「君たちはどう生きるか」 ― 考察まではいかない時系列整理 ―

ジブリ映画「君たちはどう生きるか」を見てきました。
事前情報ほぼなしで、抽象的だという噂を耳にしたくらいで見ましたが、感想は一言でいうと面白かったです。細かい部分では、これは何を意味しているのだろう? という場面もありましたが、ストーリー自体は特に分かりにくいという事もなく、いい話だと思いました。
謎の石は何なのかとか、塔とは何かとか、アオサギ、ペリカン、セキセインコといった鳥は何のメタファーなのかとか、あと大叔父様は現実の誰かをイメージしているのかとか、そういった話はここでは割愛します。
その手の考察は、おそらく見る人によって見解が分かれるところでしょう。私の考察は、まだ今のところふわふわした感じで定まっていないので、わざわざ形にするまでもないかと思います。
で、とりあえず自分の中で映画の内容を振り返るため、何が起こったのかを時系列で整理してみる事にしました。


・主人公の母の大叔父が謎の石(宇宙から来た隕石?)を囲む塔を建てて、石の力を借りて塔の中に自分の理想の平和な世界を創ろうとしていた。実際には変な鳥がいっぱいいるよく分からない世界が完成。
周囲からは、大叔父は本の読みすぎで頭がおかしくなって行方不明になったと言われる。

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・主人公の母ヒサコは、少女時代に1年だけ失踪。塔の中の異世界に行き、火を操るヒミ様となる。
未来の世界から来た息子、眞人と出逢い、眞人を生めるならと元の世界へ女中のキリコと共に帰還。2人とも異世界での記憶をなくす。

ヒサコさんを塔の中に呼び寄せたのは、大叔父様の血でしょうか。あるいは現実世界が辛くなって逃避していたのかもしれません。
彼女も大叔父様と同じく読書家と思われます。読んでいた本の内容からして、思索的なタイプではないでしょうか。大叔父様、ヒサコさん、妹のナツコさん、主人公の眞人くんなど、どちらかというとセンシティブな人が多い一族なのかも。
キリコさんがなぜ異世界にいたのかは謎ですが、老婆になってもぼっちゃんを案じて追いかけ、塔に入り込んでしまったように、おそらくきっかけはヒサコさんを捜しに来た事ではないでしょうか。元々世話焼きで勇敢な人なのでしょう。
とはいえ、そのまま塔から出てこなかったということは、それなりに現実世界で悩みや葛藤があり、異世界が性に合っていたのかもしれません。

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・ヒサコ、眞人の父と結婚。眞人誕生。

お父さんはたぶん陽キャで、お仕事を頑張ってて家族への愛情もあるけど、ちょっとお金持ちの驕りが見られ、大叔父様の血族のセンシティブな人たちとは明らかにタイプが違います。
それはそれで上手くいってるのかもしれないけど、悩むより金で解決すればいいって人なので、家族の悩みの深さはあまりきちんと伝わらないのでしょう。
さて、ここでようやく主人公です。大叔父様がマイワールドの後継者にしたがるくらいなので、大叔父様と似たところがあるのだと思います。塔に行く前は真面目で礼儀正しい子、でも少し闇を抱えているような印象です。

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・空襲でヒサコ焼死。

ヒミ様が火を操るのはこの事と関係あるのでしょうか。時間的には空襲の方が後ですが、塔の中は時間軸が入り乱れているので、そういう事もあるかと。

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・眞人の父、ヒサコの妹ナツコと再婚。ナツコ妊娠。
眞人は生母・義母の実家へ疎開。転校するも学校の友人に馴染めず、義母を受け入れる事もできず、自分で自分の頭を傷つけ学校を休む。
その間異世界のアオサギと出逢ったり、生母が自分に宛てて残した本「君たちはどう生きるか」を読んで感銘を受けたりする。

父親は怪我をした息子を見て憤り、「仇をとってやる」とは言ってくれますが、息子の本当の苦悩には気付かない、ちょっと鈍くてズレた人です。
一方義母のナツコさんは、眞人くんの現状に責任を感じています。おそらく頭の傷を自分でつけたという事にも気付いているのでしょう。実父より義母の方が自分を分かってくれるという事実に、眞人くんの心も動いたようです。
生母が残した本は実在する本で、自分を世の中の一部として俯瞰的に見る事や、いじめや差別などの問題に向き合うには実際に体験して理解し、自分で考えて答えを探していくしかない事などを説いています。
それらのメッセージを受け取った主人公は、勇気をもって異世界へと向かう事になります。

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・義母ナツコが行方不明になり、眞人は彼女の痕跡をたどり塔の中へ。現実世界と異世界を行き来するアオサギに導かれて謎の異世界へ突入。追ってきた女中の1人、老婆のキリコも巻き込まれる。

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・眞人は若い頃のキリコに助けられながら、ペリカン、わらわら、インコなどがいる世界を訪れる。途中生母であるヒミとも出逢い、ナツコの元へ案内してもらう。
ナツコから拒絶されながらも彼女を初めて「お母さん」と呼ぶ。

ナツコさんも息子は懐いてくれないし、家の使用人たちとも特に仲良さげではなく、夫は仕事が忙しそうだしあまり繊細な感情は理解してくれそうもなくて、妊娠中の不安や孤独からこの世界へ来てしまったのでしょうか。大叔父様の血縁でもありますし。
もう帰りたくない! と思っていたところへ義理の息子が助けに現れて、「お母さん」と呼んでくれた事で、気持ちが変化したようです。

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・インコに食べられそうになりながら、どうにか逃げて大叔父のところにたどり着く眞人に、大叔父はこの世界を守る役目を継ぐように頼んでくる。

大叔父様は今にも倒れそうな積み石でこのカオスな異世界の秩序を保っています。
いろいろ変な世界ですが、絶妙なバランスでなんとか維持している感じです。

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・眞人は大叔父の依頼は受けなかったが、大叔父の行為に怒ったインコ大王がやってきて、積み石をめちゃくちゃに積んで叩き壊してしまった。
塔の世界が崩壊に向かう。

なんとなくだけど、カラフルで煩くて楽しげなインコの世界が、私は嫌いではないです。(エグいけど)
インコ大王のキャラクターにも、妙な親しみと責任感を感じて、なぜかよく分からないけど好きなのです。
眞人は本で読んだ通り自身で体験し、考え、そして大叔父様の世界を受け継ぐのではなく、ナツコさんと苦難が待つであろう元の世界へ戻る事を選びます。後継者がいないという事は悲しくもあり、同時に力強く清々しくもあると思います。

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・眞人(と人形に封じ込められた婆キリコ)とナツコは元の現実世界へ、ヒミ(ヒサコ)と若キリコは以前彼らがいた過去の世界へと帰還。
塔は崩壊し、インコたちは普通の鳥として羽ばたいてゆく。
やがて眞人の疎開は終わり、東京へと戻る。



最後に、メタファーなどの考察は割愛と言いましたが、これは宮﨑駿監督の周囲の世界の話なのかもしれないし、もっと大きく捉えれば我々人類全体の話かもしれない。また見る人によって、その個々人の周辺の話に例えられるようなものかもしれません。
抽象的と称されるのは、その解釈の幅の広さ故かと思われます。ストーリーは分かりやすいですが、その世界観が何を象徴しているのか、考える余地がたくさんあるのです。
ぎっしり詰まって余地が少ない方が好きだという人には、おそらくこの作品は好まれないでしょう。
ちなみに私は、作品の広大な余白をさまよう事こそ至上の喜びという人間ですので、当然のようにこの映画が大好きです。

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