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終わらない夏に想う、終わらない決勝戦

今から14年前 夏の甲子園決勝。
わが県勢、初めての決勝進出。
わたしはその試合を、聴いた。
見ることもできたのだが、目を背けた。

そのチームは県予選で、対戦相手をことごとく蹴散らしていた。
県内敵なし。勝てる!甲子園でも。
とはいえ、そのチームは過去夏の大会4回すべて初戦敗退。県勢は夏通算でこれまで16勝。
「どうせ、また・・・」と頭をよぎる。

仕事中にテレビ、ラジオに触れにくい職種に就いていた。
試合結果はメールで確認。
初戦の2回戦 4-3 辛勝だった。あれだけの打力を以てしてもこうなのか。でも一つ勝ててよかった。もう十分だ。
甲子園の1勝がとてもうれしい県だった。
だが・・・。

12-5 11-3 2-1
勝った、勝った、また勝った。
圧勝が続いた。いいピッチャーで少ない得点を守り勝つ、かつての県勢の甲子園勝利ではなかった。県のチームが甲子園で2勝以上したこともなかった。仕事続きで試合を見れていないのも手伝って、この結果をなかなか現実としてとらえられていなかった。

決勝戦。当然ながらこの日の球場での試合は1試合。
「これは、エキシビジョンマッチではないのか?」不思議な感情が芽生えた。

初めて試合当日が休みになった。
その日は自宅から100キロ以上離れたところに行く用事があった。
別の日に変更することもできた。だが、しなかった。
中継は車のラジオで聴くことにした。正視することはとてもできなかった。

試合は1回裏、春夏通算10回の優勝を誇る相手チーム4番の2ランで先制。
その後、わが県のチームも2回、3回と1点ずつ加えた。
2-2が5回まで続く。
ここまで互角だ。「もう十分だ!」は、「勝てるか?」に変わっていた。
そして痛恨の6回裏が訪れる。

2死満塁後、またしても4番の2点タイムリーで突き放される。これを口火に
その後4点を加え、この回に一挙6点が入る。
先発ピッチャーだったこの4番はこの試合の活躍で大会NO1スター選手の座を確定したようなものだった。

目的地の市内に着いていた。ラジオを聴くのを止めた。
おもむろに全国チェーンの書店に入る。
いつもと変わらず、何人かの人間が立ち読みをしていた。
「街には人気がなく」ではなかった。案外、こういうものなのかもしれない。他県ではこういう時どうなのだろう。

海が近い都市だった。なんとなく海岸に行ってみた。
太陽の光を湛える海を見ながら、まだやっているであろう試合に思いをはせる。
「『優勝を』なんて思ったけど、甘くはなかったな。でもよかったな。生きている間に県勢の決勝戦を経験できるなんて・・・。」

もう終わっているだろうか、また車を目的地まで走らせ、再びラジオをつける。
9回表に入っていた。4-10になっていた。「そうか、それでも2点入れたんだ」淡々と試合が進む。2アウトになった。2ストライクになった。あと1球。ところが・・・。

実況が絶叫し始めた。何を言っているのか聞き取れない。ただ、「アウト」「試合終了」とは言っていない。プレーの結果の実況で試合が終わっていないのがわかり、最高潮のボルテージですごいことが起きているのがわかった。

四球 5-10 6-10 ファールフライが取れず→死球 四球 
8-10 9-10 
一体何なんだ、涙が出る。出ると負けだった県勢の代表が最多優勝校を最後まで苦しめている。勝敗以上にそのことが何より心を震わせた。
そして試合は、絶叫をぶったぎって終わった。強烈なサードライナー。
負けたのを聞き届け、目的地に着いた。

第91回全国高等学校野球選手権大会決勝(2009年8月24日)
阪神甲子園球場

日本文理(新潟) 011 000 115 9
中京大中京(愛知)200 006 20X 10

NHKの中継は録画していた。情景は新潟市から南魚沼市に帰宅後に後追いで記憶された。「そうか、中京大中京のエース・堂林君はインタビューで泣いていたんだな」
何年たっても、何度も何度も見返した。9回表は何十回見ただろうか。「『日本文理の夏はまだ終わらなーい!』のABCの中継を取っとけばよかったかな。でもNHKの実況も味があっていい」そんなことも思いながら。

ここ数年、新潟県勢はまた甲子園で勝てなくなった。
この試合は、遠い日の夢となりつつある。夢よ、もう一度ー。









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