投球メカニクス(右腕)の観察点 後編

一度の投稿で終われるんじゃないかとナメてましたが、甘かったです。前回のnoteはこちらです。前回は「並進」まで書きました。今回は後編です。なお、参考にさせていただく投手は、木下雄介投手(中日)と、種市篤暉投手(ロッテ)です。動画はこちらを主に使っていきます。

●トップ形成

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我慢してきた軸足股関節を鋭く内旋させ、踏込み足が接地したタイミングで、肩甲骨が寄っており、前腕が肘より上にあり、頭の少し後ろあたりにボールが来て少し胸が張られたような姿勢になり、上体はまだ三塁側を向いたままで、踏込み足股関節が軸足股関節の下に入っているのが理想的なトップといえると考えています。左肘を鋭く左腰のあたりに落として、その反動で右の前腕を引き上げるのかなと思います(左右の腕の連動を使うと動かしやすいです)。左肘を左腰あたりに落とすことで、左半身が引っ張られ、胸が張られたような状態になります。軸足股関節にあった体重が、踏込み足接地の際、踏込み足股関節に移動しているのがベスト。ここから、左腰付近を動きの支点にできているかどうかが重要になってきます。

トップがいつも安定していれば、制球が大きく荒れることは少なくなります。足を接地させる直前からトップを作る準備をしておく必要があります。肩甲骨を寄せて身体の後ろでトップを作らずに、上体が前を向きながらトップを作る癖がついてしまっていると、トップの位置が安定せず、ストライクとボールがはっきりしてしまう理由にもなります。いわゆる”開きの早い”フォームに繋がってしまうリスクも高いです。

なお、ステップ幅が広すぎると体重移動がうまくいきません。昔流行った、ステップ幅が広めで、重心の低く、沈み込むようなフォームは、下半身を使えているようで、結局は上体に頼っているフォームと言えるかもしれません。

●腕の加速

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ここからのフェーズは腕の動きが高速化していくので、故障のリスクが大きくなります。特に肘はデリケートな箇所なので、急加速させるのは避けた方がいいでしょう。前腕が遠くへ飛びそうになることで、肘の靭帯が引っ張られて、損傷につながりかねません。

例えば、テイクバックからさほどトップを作らずそのまま投げるフォームや、肘を折りたたむような小さなテイクバックから投げるフォーム、肘を曲げたまま一度テイクバックで動きを止めた後で一気に加速させる”逆L”とよばれるフォームなどです。仮に短期間、爆発的な活躍が出来たとしても、肘へのダメージが大きく、数年後に球速が出なくなったり、手術を受けることになりかねないでしょう。近年はビルドアップの進歩や、球速が出ていないと一軍で通用しない等の理由により、昔はOKでも今は危険度が上がっているフォームも多々あるのが現状です。

故障リスクを下げるには、上腕→前腕の順に加速させることと、そのために左脇腹の筋肉(左内腹斜筋)を収縮させて上腕を前に引っ張ってくることが大事になってくると思います。調整不足が心配された今季のNPBで、右投の投手の多くが左内腹斜筋を痛めているのを見ても、この筋肉が強く使われているのが分かると思います。末端である前腕をムチのように使えるという意味でも、上腕→前腕の順に加速させることは有益です。

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この時、ボールはトップの時にある位置(頭のすぐ後ろあたり)からあまり場所を変えないまま、肘を胸の面まで持ってくるほうがいいと思います。木下投手はうまく出来ていると思います。肩甲骨を寄せられていると、左半身は打者の方を向いていても、右の肩から先はまだ前を向ききっていない、という状態(いわゆる”開きが遅い”とはこうことではないでしょうか)が作れます。それに、上体がこちらを向いても、ボールはまだリリースされないので、打者を錯覚させれると思います。

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ボールがすぐに頭の近くから離れてしまうと、肘が早々に伸びきって、最後に前腕で加速させづらくなってしまいます。球速の割に球威の足りない投手はこういうケースが多いです。そこまで肘に悪いフォームではないと思っていますが、球速以上の球威がないことで、かなり強度の高い投球になるでしょうから、その影響で肘に負担がかかることは考えられるでしょう。あと、近年は少なくなりましたが、肩から大きく回すタイプのフォームは、肩に大きな負担がかかります。腕を大きく回せるので回転エネルギーはもらいやすいですが、その反動で肩が腕に引っ張られてしまい、外れやすくなってしまうのではないかと思われます。

あと、トップの際の肘が両肩のラインより下にきている”肘下がり”のトップの投手もいます。こういう投手は、少し押し込むようなリリースになってしまったり、肘を前に送り出すフェーズで、肘が両肩と水平の移動だけでなく、下から上に持ち上げるような動きが加わってきて、少し歪な動きになります。ダメな動きとまでは思いませんが、何らかの悪影響をきたす恐れはあります。

●リリース

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上腕を先に加速させ、肘が胸ラインにきてから、前腕を加速させます。こうすることで前腕が末端加速効果を得て非常に強く振られますし、適度な縦スピンがかかりますし、肘への負担も最小限に抑えられるのではと思います。リリースの際に見ている点は

①ボールを無理に前で放そうとしていないか

②キャッチャーミットを最後まで見ないようにしているか

③アームアングルが過剰に高くないか

④下半身の回転はどうか

⑤支点や軸はどこか

→①ボールを少しでも打者寄りの場所でリリースしようとすると、肘が前に出すぎてしまい、肘に良くない動きになります。肩より低い位置に肘が来てしまうこともあり、これもまた肘には良くないです。なお、前腕を縦に振りたいという意識は良いのですが、意識が強すぎると、肘が身体からかなり右の位置にきてしまいます。これも肘に良いとは言いにくいです

②リリースの際は右肩を少し前へ出すので、目線は少し一塁寄りになります。最後までミットを見ようとすると、肩より肘が前に出ようとしてしまい、これもまた肘に良くない動きになりかねません

③アームアングルが高いのは確かにメリットですが、両肩のラインより右肘が高い位置にあるようなリリースは右肩に良くないです。また、上体を一塁側に大きく倒してアームアングルを上げると、肘が早期に伸びてしまい、上腕と前腕が一本の棒のようになってしまいます(「腕の加速」の最後に書いた状態と似ています)。角度より球威を求めた方が良いでしょう

④最初は軸足股関節に乗っていた体重を、踏込み足が接地した際に、踏込み足の股関節に移動させるので、リリースの際は踏込み足(左足)の股関節が、軸足(右足)の股関節の下にくる感覚になるのかなと思います。右足が左足をまたぐように動けば、下半身が縦に回る感覚になると思いますが、「あし体」の投手の場合、骨盤の付き方が関係しているのか?あまり、またぐような動作にならないこともあるように思います。山岡泰輔投手(オリックス)のフォームが参考になるのでは。

体重が上手く前へ移動しないと、下半身が横に回ることが多いです。オーバースローの投手ですと、下半身は横回転なのに腕は縦に振られているという、いわゆる”ダブルプレーン”と呼ばれる状態になり、球威の減退や、ノーコン癖の原因となることがあります

支点は左腰付近に置くようにします。左肘とグラブをこの付近まで下げたほうがいいでしょう。左内腹斜筋の収縮を強く使うためです。こうすることで、右腕に過度な力みが加わらず、しなるように右腕が振られます。グラブを胸に抱えるようにすると、背骨が回転軸のようになり、体重が前に移動しきらなくなり、球威の減退につながりかねません。かつては推奨された動きですが、ここ20年ほどの間に廃れてきた感があります

あと、あまり見ない例ですが、右腕を強く振り、左半身を動かさず、ブロックするようにして右腕を走らせるフォームの投手も、右腕に蓄積されたエネルギーが右肘にダメージを与えてしまうので、避けた方がいいでしょう。

●リリース後

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リリース後は特に、左足の使い方が大事です。しっかり踏込み足(左足)の膝を伸ばしているかどうかが重要です。その伸ばし方によっては、一塁側へ回転したり、三塁側に軸足が着く場合とに分かれます。左膝を伸ばせていないと、それまで伝えてきたエネルギーが最後に大幅にロスしてしまい、腕の力で帳尻を合わすことになったりして、投球腕に負担がかかりすぎてしまいます。

あと、リリース後に上体は前へ折れますが、投球腕の動きにつられて、左肩と右腰とを結んだラインで折れるような形なので、上体を前へ折ってスピードを出そうというわけではないと思います。そもそも、上体を折る動きでそこまで大きなエネルギーは捻出できません。リリース後、折れた上体が自然と戻ってくるぐらいが良いと思います。

●おつかれさまでした

投球メカニクスの観察点についても、ひととおり、まとめることが出来ました。ただ、この動きは良さそう/良くなさそう という点があったとしても、なぜそう言えるのか?ということに関して、言語化しきれていないものは多々あります。それについては、まだまだ学ばねばならないなと思っています。なお、左腕のフォームについてや、アームアングルの低いフォームについては、次回のnoteで少し書いていけたらなと思っています。

それでは投球メカニクス観察点(後編)についてのnoteはこれで終わりになります。最後までご視聴ありがとうございました。おつかれさま~!とか、参考になったよ~!とか思ってくれたら、高評価、よろしくお願いします。それでは、ばいば~い。



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